日本人のエンゲージメントはなぜ世界最低水準なのか? ~ 社員のエンゲージメントを高める4つの要素と組織のつくり方 ~
目次
はじめに ~ 社員のエンゲージメントが企業の価値を決める ~
「社員が言われたことしかやらない」
「会議で意見が出てこない」
「育てても辞めてしまう」
こうした状態を、“最近の若手は…”で片づけていないでしょうか。
しかし実際には、その原因の多くは社員ではなく、“組織のつくり方”にあります。
今、社員のエンゲージメントを高めることに注力している企業が増えています。
エンゲージメントが高い状態とは、社員が会社の共通の目的を理解し、会社に愛着を感じながら、自発的に貢献しようと思っている状態です。
なぜ今多くの企業が社員のエンゲージメントを高めることに注力しているかというと、社員のエンゲージメントが高まることによって様々な課題が解決し、会社全体のパフォーマンスが高まるからです。
社員のエンゲージメントの高い組織は、創造性や生産性が高く、業績が高いことが調査によってわかっています。
社員のエンゲージメントが高まると、社員の主体性やチームワークが引き出されるからです。
それだけではなく、社員のエンゲージメントが高い会社は社員がイキイキ働いて魅力的に見えるので、人材を惹きつけ、その人材が定着・活躍し、またミスやメンタル不全が減るなど、様々な経営課題の解決にもつながります。
社員のエンゲージメントの向上に取り組むことは多面的な経営効果をもたらしますが、ギャラップ社の調査によると、日本人のエンゲージメントは世界最低水準で、一向に改善の兆しが見えません。
本記事では、日本人のエンゲージメントが世界最低水準である理由を探ることによって、その理由から逆に社員のエンゲージメントを高める4つのポイントを明確にしていきたいと思います。
日本人のエンゲージメントはなぜ世界最低水準なのか
キャラップ社の2023年の調査によると、日本人のエンゲージメントの高い社員(熱意あふれる社員)の割合は約6%で、世界最低水準です。
もし100人の会社だったら、たった6人しか熱意を持って仕事をしていないことになります。
その日本に対して、世界平均が21%、アメリカの平均が約30%なので、日本人のエンゲージメントがいかに低いかがわかると思います。
エンゲージメントの高い社員の割合の世界平均は毎年高まっているのに、日本は5~7%の間をいったり来たりしていて、改善の兆しが見えません。
これは、日本の企業が社員のエンゲージメントを高める有効な手を打てていないことを如実に物語っていると思います。
では、この日本人のエンゲージメントが極めて低い理由は何のでしょうか。
結論から言うと、日本企業の多くが「人を活かすための組織設計」になっていないことが、その根本的な要因です。
ギャラップ社はリポートの中で、日本人のエンゲージメントが低い理由を4つあげています。
1つ目は、多くの日本人が自分の仕事に意味や意義を感じて働いていないことです。
日本人は仕事の目的をよく理解していなくても言われたまま、指示されたままに仕事をするケースが多く、何のために仕事をしているのかわからないまま働いているということです。
2つ目は、日本人の多くが自分の個性や強みが職場で活かされていないことです。
会社や上司は、社員の個性や強みを活かすという発想がそもそも希薄で、とにかく社員には自分の役割ややるべきことをやって欲しいと考えています。
3つ目は、社員個人の成長に対する配慮がほとんどないということです。
会社や上司は自分たちが求める能力やスキルは高めて欲しいと思っていても、社員個人が望む成長には関心を払っていません。
そして4つ目は、社員は上司や同僚との人間関係が希薄で、適切なフィードバックや支援を得られることが非常に少ないことです。
会社などの集団の中での付き合いは表面的で、孤立無援の状態にあると言えると思います。
これらの理由を踏まえると、日本の会社の経営者やマネジャーは多くの場合、社員のことを一人の人間として見ているというよりも、業務を遂行するための役割や機能として考えがちだということが見えてきます。
日本人である私たちは、会社とは、組織とはそんなものだろうと思っていて、あまり違和感を感じていないかもしれませんし、海外でも社員を役割や機能でみているということは多分にあると思いますが、日本は他国に比べて職場では社員を一人の人間として尊重する考え方があまりなく、建前が前面に出て人間的な関係性をつくることがむずかしい職場環境になっているのだと思います。
そして、このギャラップ社が日本人のエンゲージメントが低い理由としてあげた4つに加えて、私は2つの要因があると思っています。
1つは、仕事を任される割合が少なく、裁量権が非常に限られていること。
そしてもう1つは、日本の文化として寛容性が低く、褒められることがほとんどない代わりに、失敗やミスをすると厳しく責められることです。
これらの理由をみてみると、多くの日本人は自分の役割や期待されることを達成するために一人で責任感やストレスをかかえながら頑張っているのに、いざというときには周りから助けてもらえないという、とても厳しい状態に置かれていると思います。
これでは、日本人のエンゲージメントが世界最低水準なのもうなずけます。
したがって、日本人のエンゲージメントを高めるためには、社員が仕事に意味を感じられるように働きかけたり、本人の強みに配慮するなど、社員個人にもっとフォーカスしたマネジメントが必要になってきそうです。
日本の経営者やマネジャーは、自分たちは何もしてもらえなかったという過去の経験は横に置いて、今大きな意識の転換が求められているのです。
社員のエンゲージメントを高める4つの要素
それでは、前項での日本人のエンゲージメントが低い理由なども踏まえて、社員のエンゲージメントを高めるにはどうしたらよいのか、何がポイントなのかを考えていきたいと思います。
社員のエンゲージメントを高める最大のポイントは、社員を役割や機能としてだけではなく、一人の人間として大切にするということだと思います。
それは、社員が仕事や人生で求めている「基本的なニーズ」を満たすことに配慮してあげるということにつながります。
社員は自分たちの基本的なニーズを満たし、幸せな働き方を実現しようとしてくれる会社に愛着を感じ、その配慮に積極的に報いたい、貢献したいと思うようになります。
つまり、社員は基本的なニーズを満たそうとしてくれる会社に、自然とエンゲージメントを感じるわけです。
それでは、社員が仕事や人生で求めている「基本的なニーズ」とは何でしょうか。
当社が企業支援に入るときには、最初にかならずエンゲージメント調査をさせていただくのですが、少なくとも10名以上の社員の方に直接インタビューをします。
40数項目の質問の最後にするのが、「あなたが人生をより充実した、楽しいものにするために、もっとも必要なもの、大切なことは何ですか」という問いかけです。
要するにインタビューされる人が生きる上での基本的なニーズ、幸せになるために重要なことを聞いているわけです。
いろいろな企業でこの問いをしてきましたが、回答はほぼ4つに集約されます。
それは、
- やりがい
- よい人間関係
- 成長
- 安全・安心(お金)
の4つです。
この4つの基本的なニーズの中で回答が最も多いのが「やりがい」で、やりがいのある仕事がしたい、仕事にやりがいを感じたいというのが最大の欲求です。
人間はやはりこの世に生まれた限りは、自分にとって意味のあることをしたい、自己実現したいという強い欲求を持っているようです。
そして、やりがいとほぼ同じぐらいの強さで出てくるのが、「よい人間関係」を結びたいという欲求です。
家族、友人、同僚などとよいつながりを持ちたいという欲求です。
このやりがいとよい人間関係への欲求が、人間の2大欲求と言ってもよいと思います。
この2つが満たされれば、他のことが多少満たされなかったとしても、人間は幸せを実感できるのではないでしょうか。
そして、「成長」と「安全・安心(お金)」は、やりがいとよい人間関係をより充実させるための補完的なもの、基礎的な条件と考え、できるだけ得られるといいよねと思っているようです。
やりがいとよい人間関係を得るためにも、人間的にもっと成長したいし、お金もできるだけ欲しいという感じです。
お客様のニーズを丁寧に満たすと、お客様は喜び、ファンになってくれて、自社の商品やサービスを積極的にSNSなどで発信してくれるような顧客エンゲージメントを高めますが、同様に社員のこの根源的とも言える「基本的な4つのニーズ」を丁寧に満たす組織づくりに取り組むと、社員のエンゲージメントは自然に高まっていきます。
ただ、社員の「基本的な4つのニーズ」を満たし、エンゲージメントを高めるだけでは経営としては不十分で、その社員のエンゲージメントの高まりを活かして世の中に自分たちらしい独自の価値を提供できるようになる、2つのことが両立する組織づくりが必要です。
社員のエンゲージメントが高まることで、指示を待つのではなく、自ら価値を考え、創り出す力が生まれます。
その結果として、他社にはない独自の価値提供が実現し、業績にもつながっていくのです。
社員のエンゲージメントを高める「5つの組織基盤づくり」
社員の「基本的な4つのニーズ」を満たし、エンゲージメントを高めるだけではなく、お客様や社会に対する独自の価値提供も同時に実現する組織づくりが、下記の「5つの組織基盤づくり」です。
- 目的の共有
- 主体的な実行体制
- 心理的安全性
- 成長の後押し
- 経済的・身体的安全性
この5つの基盤は、単に並列に存在しているのではなく、順番に整備していくことで初めて機能します。
例えば、目的が共有されていない状態では主体性は生まれず、心理的安全性がなければ主体的な行動も継続しません。
1と2に取り組むことで「やりがい」を、3に取り組むことで「よい人間関係」を、4に取り組むことで「成長」を、5に取り組むことで「安全・安心(お金)」を社員に実感させることができ、1と2が軌道に乗ればお客様や社会に自分たちらしい独自の価値を提供できるようになります。
1の「目的の共有」は、会社全体で目指す理想(会社の方針)を明確にし、社員と共有することです。
会社が何を目指し、どのように社会貢献しようとしているのかがわかることは、社員のやりがいの源泉になります。
その上で、会社が目指す理想の実現のために、社員が主体的に仕事に取り組む仕組みが、2の「主体的な実行体制」です。
主に目標管理の仕組み(OKR)のことを言っているのですが、自分たちで理想を追いかける目標を具体的に設定し、着実に現実をつくっていく仕組みなので、社員のやりがいにつながります。
3の「心理的安全性」は、1の目的の共有と2の主体的な実行体制をうまく機能させるための土台になるもので、信頼し合い、協力し合う組織風土づくりで、社員に「よい人間関係」を実感させることができます。
4の「成長の後押し」はマネジャーが、メンバーの自律的な働き方を促して成長や自己実現をサポートする取り組みで、社員に「成長」を実感させることができます。
そして最後の「経済的・身体的安全性」は、報酬や働く条件・環境を充実させていく取り組みで、社員が働く上でのベースのベースを整えることになるので、社員に「安全・安心(お金)」を実感させることができます。
この「5つの組織基盤づくり」に順番に取り組んでいくと、社員に対する人間としての当たり前の働きかけが実現し、「基本的な4つのニーズ」を満たすことができるので、社員のエンゲージメントを高めるとともに、お客様や社会に対する自分たちらしい独自の価値提供が実現します。
社内に好循環が生まれ、採用や定着、社員の主体性などの経営課題が複合的に解決し、生産性、創造性、売上や利益などのパフォーマンスが高まっていくことによって、会社の持続的な成長・発展が実現します。
まとめ
もし、次のような状態に心当たりがあるなら、組織の設計を見直すタイミングかもしれません。
- 社員が受け身で、指示待ちになっている
- マネジャーが現場を回すだけで精一杯になっている
- 育成しても人が定着しない
- 部門間の連携が弱く、バラバラに動いている
これらはすべて、「個人の問題」ではなく「組織のつくり方」で解決できる課題です。
社員のエンゲージメントを高める「5つの組織基盤づくり」は決して難しい取り組みではありません。
会社の目指す方向を明確にし、主体的な実行体制をつくり、その2つを信頼し合える組織風土で支え、社員の自己実現を後押しし、安心して働ける環境をつくるという、本来社員を人として扱う当たり前の働きかけを当たり前にする取り組みです。
ただ、この当たり前の働きかけが日本では圧倒的に足りていなかったのです。
なぜならば、社員を人として見るというよりも、役割や機能として見がちだったからです。
ですから、経営者やマネジャーの皆さんは、社員に対する人間としての当たり前の働きかけを当たり前にし、同時に世の中に対して独自の価値を生み出していくことが本来の組織の姿であることを想い出して欲しいのです。
ただ、人間は身内だけで当たり前のことを当たり前にし続けることはとても苦手です。
当たり前のことを当たり前にやることを堂々と勧め、その伴走をしてくれる外部の支援者が必要になることもあります。
ぜひ、社員の「幸せな働き方」と世の中に対する自分たちらしい「独自の価値提供」が同時に実現する組織づくりに一緒に取り組みませんか。