チームワークが不可欠な時代、その土台は信頼関係
目次
はじめに
「打ち込む価値のあるもので、ひとりだけでなし遂げられるものなどひとつもない」
これは、『ビジョナリー・ピープル』という本の中で、ある非営利団体の設立者が語った言葉です。
何か意味のあることを成し遂げようとする場合、一人ひとりの意志だけではなく「連携」が必要になります。
今はとても先行きが見えない、正解と思われるものが、優秀な経営者を含めて誰にも見通せない時代になっています。
そして顧客からの要求水準も高まっていますし、提供したいと思う商品やサービスの内容も高度になっています。
単純なものなど何もないと言えるかもしれません。
そんな中で、社員やメンバー一人ひとりが情報やアイデアを持ちより、緊密に連携してものごとを前に進める、効果的なチームワークが不可欠な時代と言えます。
うちの会社は皆がそれぞれ淡々と仕事をこなしていて、安定的に事業ができているからチームワークは特段必要ないかなと考えている経営者の方もいらっしゃるかもしれません。
でも社員の皆さんが連携しなくても事業が安定的にできているのなら、そこに効果的なチームワークが生まれたとしたら、もっと望む展開を実現できるのではないでしょうか。
今回は効果的なチームを生み出すポイントとその土台となる信頼関係について、お伝えしたいと思います。
チームワークは自然には生まれない
おもしろいもので、どんなに人柄のいい人たちを集めたとしても、何の働きかけもしなままで企業の組織やチームのメンバーが自然に連携し、チームワークを発揮するということはほとんど起こりません。
とくに社員に対して何らかの強いプレッシャーがあるとか、ほったらかしになっているなど不安感の漂う組織では、まるでお約束のように人間関係はぎくしゃくしています。
人間には防衛本能があり、不安を感じる状況の中では、当然自分を守ることが優先され、同僚との間でも、自分が得られるものはなるべく多く得よう、他の人より価値を出し評価されよう、自分がコントロールできる少しでも強い立場になろうなど、本人が自覚しているかどうかは別として、そうした利己的な意識がどうしても働きやすくなります。
ですから、組織やチームをそのままにしておくと、多くの場合協力し合わない状態になってしまいます。
他のメンバーには無関心で、メンバー同士あまり話もせず、それぞれが個人商店のように仕事をして、部署同士も責任を押し付け合って協力できないなどの状態が生まれます。
これでは会社に行くのは楽しくないでしょうし、モチベーションも上がらず、顧客への商品やサービスの提供もおざなりになり、ますます楽しくなくなって会社には給料を稼ぐためだけに行き、求められていることしかしないという残念な状態の組織が生まれてしまいます。
やはり、できたら組織の中には、一人ひとりが能力を最大限に発揮し、緊密に連携し合う効果的なチームワークがあった方がいいと思いますし、先に述べたように効果的なチームワームなしでは顧客にも十分な価値提供ができない時代になっています。
それでは、効果的なチームワークを組織の中に生み出すにはどうしたらよいのでしょうか?
次に、効果的なチームワークを生み出す3つの要件について見ていきたいと思います。
効果的なチームワークを生み出す3つの要件
『最強チームをつくる方法』の著者のダニエル・コイルによると、大きな成功を収めているチームのメンバーに、お互いの関係について尋ねると、たいてい同じ答えが返ってくるそうです。
多くの場合、彼らは自分たちの関係を「家族」という言葉で表現するのだそうです。
この著書の中にそうした大きな成功を収めているチームのメンバーに対する様々なインタビューが載っているのですが、それを総合すると、チームの中にいると家庭にいるときのように、リラックスでき、自分らしくいられ、いざとなれば支えてくれるという安心感があるようなのです。
そうしたチームの具体的な特徴としては、メンバー同士の物理的距離が近い、よく輪になっている、アイコンタクトや握手・グータッチ・ハグなどの接触がある、短い言葉のやり取りが多い、誰もが分け隔てなくメンバー全員と会話する、人の話をさえぎらない、人の話を熱心に聞く、ユーモアと笑いがある、ありがとうを言うなどです。
確かに仲のいい家族もこんな行動を取っているのではないでしょうか。
したがって、効果的なチームワークを生み出すための第一の要件は、リラックスでき、自分らしく振舞うことができる、支え合う安心できる関係性と言うことができると思います。
ただ、安心できる関係性さえあればチームワークが生まれるかというとそうではなく、連携・協力するためには、自分たちにとって意味のある共通の目的や目標が必要になってきます。
共通の目的・目標がないと、各々がどう協力したらよいのか指針となるものがないので、自分の目の前のことにしか取り組まなくなり、部分的な連携や協力は生まれるかもしれませんが、チーム全体のチームワークは生まれないでしょう。
そして、効果的なチームワーク生み出すには、自分たちの目的・目標やそれを実現するための方針を想い出し、それに向けての自分たちのパフォーマンスや課題などの現状を確認するための日常的なコミュニケーションが必要になると思います。
まとめると、効果的なチームワークを生み出すために必要な3つの要件は下記のとおりです。
- 心理的安全性
- 意味ある共通の目的や目標
- 日常的なコミュニケーション
効果的なチームワークを生み出すためには、リラックスし安心できる心理的安全性の高い状態をつくり、自分たちにとって意味ある目的や目標を明確にし、日常的に目的・目標を想い出し、自分たちの現状を把握する場をまめに設けることが必要ですが、この3つの要件を機能させるためには、その土台としてメンバー同士の信頼関係があることがとても重要です。
それでは次に、人が人を信頼している状態とはどういう状態なのかについて見ていきたいと思います。
効果的なチームワークを生み出す土台が「信頼関係」
前項で、効果的なチームワークを生み出すためには、3つの要件があり、まず心理的安全性が高い状態をつくって、自分たちにとって意味のある目的や目標を定めて、日常的なコミュニケーションでその目的や目標と進捗状況の確認を行うことが必要だとお伝えしました。
そして、この3つの要件それぞれを成り立たせるのがメンバー同士の「信頼関係」です。
最初の心理的安全性とは、皆さんも聞いたことがあると思いますが、メンバーが否定されたり、バカにされたりするという懸念なしに、言いたいことを安心して発言でき、受け入れてもらえると思える状態を言います。
まさにメンバー同士に「信頼関係」がなければ、安心して思ったことを率直に発言することはできないでしょうし、本音で話して自分たちにとって本当に意味のある目的や目標を決めることはできないでしょうし、現実をありのままに確認しながら前に進んでいくこともできないでしょう。
ですから、効果的なチームワークを生み出す3つの要件を貫くように、その土台に「信頼関係」が必要です。
それでは、信頼関係とは、メンバー同士が信頼し合っている状態とはどのような状態をいうのでしょうか。
私たちは、誰かとコミュニケーションを取るとき、そこには二つのコミュニケーションが同時に存在しています。
「意識コミュニケーション」と「無意識コミュニケーション」です。
人と信頼関係を築く上で特に影響が大きいのが、「無意識コミュニケーション」です。
そして、表面上(口頭上)ではなく、無意識レベルでの本質的な信頼関係のできている状態を「ラポールがとれている」と言います。
このラポールがとれている状態が、本当の意味での信頼関係が築けている状態です。
人には顕在意識と潜在意識があります。
顕在意識とは、自分で把握できる表層の意識のことです。
潜在意識とは、自分で自覚していない意識のことで、自身の過去の経験などをもとに無意識のうちに蓄積された習慣、価値観、信念、思い込みなどによって形成されるとされています。
人の判断・行動のうち1%が顕在意識によるもので、判断・行動の99%が潜在意識によるものだと言われています。
たとえば、人は歯を磨くとか、食べる、歩く、自転車に乗る、スポーツをするなど日常で行っていることのほとんどを意識的ではなく、無意識に行っています。
家を出たときに鍵をかけたかどうか不安になって戻ってみるとだいたい鍵がちゃんとかかっているとか、ベロベロに酔っぱらってまったく記憶がないのにちゃんと自宅に帰って寝ているとか、人はほとんどのことを無意識に、自動的に、かつ瞬時に判断しながら、行動しています。
人間は人と対峙するとき、会話や表情を使って意識的なコミュニケーションを行っていると同時に、潜在意識が無意識コミュニケーションを行っています。
この無意識コミュニケーションの方が、信頼関係を築く上では大きな影響があると先ほど申し上げましたが、表面的にどんなに礼儀正しく、丁寧に会話をしていても、潜在意識が「何となくこの人は怪しいぞ」と思ったら、ラポールは生まれません。
この潜在意識は、主に人間が危険を避けて安全に生きていくための自己防衛本能に動機づけられていて、相手のちょっとした表情やしぐさ、言い方や声のトーン、見た目などを総合的に判断して、敵か味方かを本能的に無意識に判断しています。
相手が、安心をもたらす人か不安をもたらす人か、快か不快かを無意識に、そしてほぼ瞬時に判断しています。
この無意識レベルでの本質的な信頼関係=ラポールがないと、当然本音がしゃべれなくなり、逆に表面上は仲良しこよしになります。
ただこの状態は建前で表面的な話しかしていないので、肝心なことは話していませんし、重要なこと、本当に意味あることは決まらず、なかなか良い結果を生み出せません。
逆にラポールがとれていると、自由にしゃべり、安心して喧嘩ができます。言いたいときに言いたいことを言い合えるのです。
いわゆる、お互いが心をオープンにしている状態で、心理的安全性の高い状態と言えます。
したがって、効果的なチームワークを生み出し、チームで質の高い、優れた判断をし、行動をしていこうと思ったら、メンバーの間で、無意識レベルでの本質的な信頼関係=ラポールが取れている状態をつくっていく必要があります。
それでは、どうしたらラポールがとれるようになるのか、次にラポールを生み出す人との向き合い方の原則を見ていきたいと思います。
信頼を結ぶ人との向き合い方のシンプルな原則
人と信頼関係を生み出そうと思ったときに、重要なことは何なのでしょうか?
先ほど無意識レベルでの本質的な信頼関係=ラポールを結ぶことが重要だというお話をしましたが、人間には自己防衛本能があって、無意識のうちに相手を敵か味方か、安心を与えてくれる人か不安を与える人なのか、快い人か不快な人かを瞬時に判断し、自分を守ろうとしています。
したがって、人は安心感を与えてくれる人、嫌なことをしない人を信頼し、つき合い、協力し合いたいと思います。
つまり、人とラポールを築こうと思ったら、安心を感じさせるメッセージを与え続け、安心感を与える向き合い方をする必要があります。
ですから、人とラポールを築く原則は非常にシンプルで、一言で言えば相手に安心感を与える態度や行動を取り続けるということです。
そして、このラポールを築く原則には、「ラポールの土台」と「ラポールの3つの原理」があります。
それでは、このラポールの土台とラポールの3つの原理についてそれぞれ説明していきたいと思います。
ラポールの土台
ラポールを築く原則は安心感を与える態度や行動を取り続けることだとお伝えしましたが、このラポールの土台は相手に安心感を与える1丁目1番地です。
人間が社会を生きていく上で一番不安を感じることは、何だと思いますか。
それは、身近な人たち、家族や友達、先生、上司や同僚などから自分の存在を認めてもらえないことです。
そして、自分の存在を認められない行為の中で一番不安を感じるのが、周りの人から無視されることだそうです。
無視されることは嫌われるよりもきついそうです。
嫌われるのはまだ存在を認める部分が残っていますが、無視をするということは、お前の存在は認めていないよ、できればいなくなって欲しいという強烈なメッセージです。
これは人間にとってもっともつらい仕打ちだと思います。
ですから、相手とまたはメンバー間でラポールを築こうと思ったら、まず無条件にお互いの存在を認めるということがとても重要です。
何かをしたら、何か成果を出したらなどの条件付きで存在を認めるのではなく、まず仲間として、人間として受け入れるということです。
つまり、ラポールの土台とは、相手を無条件で存在承認するということです。
存在承認というととても難しいことのように思いますが、実は簡単で、「あなたという存在を認めているよ」というごく簡単なメッセージを伝え続けることです。
これを「1秒コミュニケーション」と呼んでいます。
例えばこうゆうことです。
- あいさつをする
- 会釈をする
- 笑顔で対応する
- アイコンタクト
- 一声かける(名前を呼んであげるとなお存在承認がつよくなる)
- 合図を送る
- 触れる(背中をたたく、握手するなど)
つまり、こちらから一瞬でいいので、暖かいかかわり方を折に触れて積み重ねるということです。
たぶん、多くの方は普段からやっていることだと思いますので、普段の行動に少し意識的に暖かさをプラスするとよいと思います。
これが、ラポールを築く上での土台になります。
ラポールの原理
次にラポールを築く上での3つの原理についてお伝えしましょう。
人はどういう人を信頼するのかという原理です。
- 人は自分のことをありのままに理解しようとする人を信頼する
- 人は自分が大切にしているものを大切に(尊重)してくれる人を信頼する
- 人は共通部分を認識したり、感じ取ることで信頼度を高める
まず最初の「人は自分のことをありのままに理解しようとする人を信頼する」という原理は、人とラポールを結ぶ上で最も重要な原理と言っていいと思います。
人は、人を理解しようとするとき、過去の自分の経験から生み出した価値観、信念、思い込みなどから、ほぼ無意識に評価・判断・解釈しながら人を理解しようとしています。
この人はこういう人に違いない、この人の言っていることは正しいとか正しくないとか、評価・判断・解釈加えながら話を聞いたり、勝手に判断したりしています。
ようするにサングラスをかけて相手を見ているような状態です。
人は勝手に決めつけられて自分のことを判断されることをもっとも嫌います。
皆さんも、あなたはこういう人ですよねと決めつけられながら会話をしているとムカムカするのではないでしょうか。
ですから、人は自分のことを評価・判断・解釈しながら理解しようとする人には心を開かず、ラポールを築くことができません。
相手をありのままに理解しようとするというのは少し難しく感じるかもしれませんが、自分の過去の経験からつくり上げた価値観、信念、思い込みはひとまず脇に置いて、相手の心の中にどんな声があるのかを観察するようにそのままキャッチするということです。
皆さんは音楽を聴くときは、たぶん思考で良い悪い、正しい正しくないなどの評価・判断・解釈をしながら聞くのではなく、どのように音が鳴っているのか、どのようなメロディーなのかをひたすら感じ取ろうとしているのではないかと思います。
これが、ありのままに理解しようとする、つまり「傾聴」と言うことです。
「あなたの心の中にはそんな想いや考え方があるんだね」とニュートラルにただただ感じ取るということです。
そして、2番目の「人は、自分が大切にしているものを大切に(尊重)してくれる人を信頼する」という原理は、第1の原理の相手をありのままに理解しようとする中で、相手が大切にしていることが理解できたら、自分の価値観や信念と違っていたとしても大切にしてあげる、尊重してあげるということです。
例えば、お客様が大事にしていることがわかったら、それが自分の価値観や信念と違っていたとしても、それを受け入れ、尊重するということです。
もしお客様が大事にしていることを自分の価値観や信念とは違うということで否定してしまうと、そこでお客様とラポールを築くことはできないでしょう。
それは、家族も友人も取引先もメンバーも同僚も同じです。
そして3番目の原理である「人は共通部分を認識したり、感じ取ることで信頼度を高める」というのはよく理解できると思います。
話しをしていて、趣味や出身地が同じことがわかると急に話がはずんで、相手との距離が一瞬で縮まったというような経験があるのではないでしょうか。
そして、会話をする中で、相手が大切にしていることと自分が大切にしていることの共通点を見つけ、共感できたら、それを実現できるように相手のことを後押ししてあげたり、お互いに大切にしていることの共通する部分を一緒に実現しようとすると非常にラポールが高まっていくと思います。
ラポールの土台とラポールの3つの原理、いかがでしょうか。
相手の存在を無条件に認め、相手のことをありのままに理解しようとし、相手が大切にしていることを尊重し、お互いに大切にしていことの共通点が見つかればその実現を一緒に目指す、このような向き合い方が常にできれば、しっかりとした信頼関係が生まれるのではないでしょうか。
これはテクニックと言うより、人と向き合う際の人間としての基本的なあり方だと言えると思います。
効果的なチームワークを生み出したいと思ったら、リーダーはメンバーに対して、メンバーはリーダーと他のメンバーに対して、「ラポールの土台」「ラポールの3つの原理」にもとづいた向き合い方をしていただければと思います。
そしてこれは一般的な組織の中だけの話ではなく、豊かな人間関係を築きたいと思ったら、家族に対して、友人に対して、恋人に対して、出会うすべての人に対して、こうした向き合い方をしていただけるとよいと思います。
本能レベルでの心をオープンにした関係を築けると思います。
まとめ
今は、優秀な経営者ですら正解というものがわからない不透明な時代です。
したがって、組織のメンバー全員が自分が持っている情報やアイデアを持ち寄り、それをオープンにテーブルに並べて自分たちにとっての正解を見出し、それを協力しながら実行していくことが必要です。
お客様の要求水準が高まり、提供しようとする商品やサービスなどの価値提供の難易度は年々上がっており、1人だけの力でなし遂げられることはなくなってきていると言えます。
効果的なチームワークがますます求められています。
効果的なチームワークを生み出すためには、①心理的安全性、②意味ある共通の目的や目標、そして③日常的なコミュニケーションが必要です。
そしてこの3つの要件を成立させるためには、メンバー間での信頼関係がその土台となります。
メンバー間での信頼関係を生み出していくためには、「ラポールの土台」と「ラポールの3つの原理」にもとづいた日常的で継続的な向き合い方をメンバー同士で実践していく必要があります。
信頼関係を築く、口で言うことは簡単ですが、築くのにはとても時間がかかりますが、「ラポールの土台」と「ラポールの3つの原理」をはずれた向き合い方をした瞬間瓦解することもあります。
ぜひ粘り強く取り組んでいただければと思います。