社員に主体性と一体感が生まれる、OKRという仕掛け

はじめに
常々、社員がなかなか自分から行動しようとしない、社員同士あまりコミュニケーションを取らず協力し合わない、全社的に積極性が弱く、社内に活気がなくて残念だなぁと感じることがあるかもしれません。
社員が自ら必要な行動をとって、協力し合い、社内には一体感や活気があって、お客様が喜ぶ価値を着実に提供できている、そんな経営ができたらどんなにいいだろうと思うことがあるのではないでしょうか。
とても理想的な状態ですよね。
社員に主体性や協調性がなく、活気のない時には、どうしても社員のやる気の問題や能力など社員の資質のせいにしてしまいがちです。
もちろん社員に主な原因があるケースもありますが、社員が主体的に働かない、協力し合わないのは、会社の社員に対する働きかけが不十分な場合がほとんどです。
社員に主体性を生み出し、協力し合う一体感のある会社にするためには、社員一人ひとりが目的意識を高め、社員同士で質の高いコミュニケーションが行われるように会社や経営幹部が必要な働きかけをしていくことが重要です。
そうした社員の主体性と質の高いコミュニケーションを促すのにもっとも効果的な仕掛けが目標管理制度の一つである、OKRです。
今回はこのOKRとはどんな目標管理制度なのか、社員に主体性と協力を生み出すメカニズムをお伝えしたいと思います。
OKRとは
OKRは目標管理制度の一形態で、インテルやGoogle、日本ではメルカリやfreeeなど急成長を目指す大手IT企業やベンチャー企業がこぞって導入し、数年前に注目されました。
ただ私の感覚だと、このOKRは、安定軌道に入った中堅・中小企業でも機能しやすい仕組みだと思っています。
それではまず、一般的な目標管理制度とはどんなものなのかから見ていきましょう。
一般的な目標管理制度は、会社全体の売上や利益などの経営計画の数値目標を達成するために、各部、その下の各チーム(課)、各チームのメンバーが上位組織の数値目標を踏まえて、主に売上、利益率、獲得顧客数など定量的な目標を設定して、その達成を目指します。
各メンバーの目標数値の合計が上位のチームの目標数値以上になり、各チームの目標数値の合計が部の目標数値以上になり、各部の目標数値の合計が会社全体の計画数値以上になるように目標が決められ、各レベルでの目標がそれぞれ達成されれば会社全体の目標が達成されるという仕組みです。
もちろん定量的な目標だけではなく、数値目標を達成するためにこんな状態を生み出す、こんなスキルを高めるなどの定性的な目標を設定する場合もありますが、定性定期な目標はあくまでも定量的な数値目標を達成するための副次的な目標に位置づけられます。
それに対してOKRは、全社、各部、各チーム、各メンバーで上位の組織の目標の達成を意識しながらそれぞれ目標を設定することは同じですが、設定する目標の構成が一般的な目標管理制度とは逆になっています。
OKRは、自分たちが理想と考える定性的な状態を実現するための目標管理の仕組みです。
会社の企業理念、中期ビジョン、経営戦略などの主に定性的な目的の実現を目指し、OKRでは全社、各部、各チーム、個人で上位の目標の実現を踏まえながら、定性的な「目標(O)」を1つ設定し、その定性的な目標の実現度合を測るための定量的で具体的な「重要な結果指標(KR)」を2~5つ程度設定します。
具体的にどんな感じになるかというと、たとえば会社全体の企業理念は「働くすべての人が、自分らしく活き活きと輝く世界をつくる」、その企業理念を実現するための会社全体の中期ビジョン(3~5年後ぐらいを見据えたありたい理想の姿)は「人材が集まり、定着し、優れた価値を提供し続ける魅力的な会社になる」だとします。
この中期ビジョンに対する今年度の全社OKRは
目標(O):社員のエンゲージメントの劇的な向上
重要な結果指標(KR)
- 会社全体の離職率を5%未満にする(現在10数%)
- サービスの質を高め、やりがいを感じる社員の割合を50%アップ
- 部門横断のわくわくするプロジェクトチームを3つ立ち上げる
そして、今年度全社OKRを受けた人事部OKRは
目標(O):社員の定着率の劇的なアップ
重要な結果指標(KR)
- 新入社員の3年後定着率90%以上
- 〇月までに、全社員を対象とした理念研修・キャリアデザイン研修の実施
- プロジェクトチーム制の運用基準を〇月までに決定・運用開始
などのように設定します。
このように、最終的には企業理念の実現を意識して、それぞれのレベルで定性的な目標(O)がブレイクダウンされていき、一貫性のある形で有機的につながっていて、それぞれの定性的な目標(O)を実現するために、定量的な重要な結果指標(KR)でその実現度を測っていきます。
OKRはなぜそれをやるのかという定性的な目標(O)が軸になっているので、社員はその目標を実現する意味や意義を感じることができ、一般的な目標管理制度に比べて格段に社員の内発的なモチベーションが高まり、やりがいを感じられるようになります。
そして、具体的な数値目標とも言えるKRで目標達成状況をチェックしながら進みますので、目標の実現性を担保することができます。
OKRは、とてもシンプルで人間のやる気を刺激し、実行力も高められるので、非常に無理のない優れた仕組みだと思います。
OKRはなぜ社員の主体性を引き出すことができるのか
OKRはなぜ、社員の主体性を引き出しやすいのでしょうか?
人間は、ゴールを目指す意味(目的)がわかり、目指すゴールが具体的にわかると、ある意味自然にモチベーションを高め、こうしたらいいんじゃないかと考え始め、自発的に創意工夫をし始めます。
OKRは、Oがゴールを目指す意味(目的)、KRが具体的に目指すゴールを各レベルでシンプルに明確にしたものです。
一般的な目標管理制度は、数値目標であるKRは設定しますが、通常それをやる意味や理由であるOを明確にしません。
人間の脳は数値だけの目標は無意識に「つまらない」と感じるそうです。
そして、その数値目標が自分には関係なく、会社や上司の都合だけで設定されたものだとすれば、やる気が起きないのはある意味当然です。
やる気が起きなければ、なるべく達成しやすい低めの数値目標にしたいと考えますし、その数値目標を達成するのになるべく手を抜いて、最短距離で達成したいと人間は思うようになるので、当然自発的な創意工夫が生まれず、仕事の質は上がっていかないことになります。
一方で、OKRはすべてのレベルでの目標が定性的な意味で構成されているので、なぜそのゴールを達成しなければならないのか意味や理由が分かり、かつ自分の仕事が最終的には自分たちが理想とするビジョンや企業理念の実現につながっているということが分かれば、自分の仕事にやりがいや誇りを感じるようになり、主体性が生まれます。
また、会社や自分が所属する部やチームがどのような方向を向いていて、どのようなことをしようとしているのかその道筋がわかるので、自分は今何をしたらよいのか発想し、行動することができるようになります。
たとえば、「3日間で10のありがとうをもらってきてい欲しい」とただ指示されるのと、「当社のファンを増やしたいので、3日間で10のありがとうをもらってきて欲しい」と指示されるのでは、ちょっとした違いですが後者の方が方向性(目的)が分かるので、人間はより自分で考えて、創意工夫がしやすくなり、主体的に行動できるはずです。
前者が一般的な目標管理制度で、後者がOKRであり、OKRがいかに社員の主体性と創意工夫を引き出す仕組みであるかが容易にわかると思います。
そして、OKRは自分たちが実現したい、かなりレベルの高い理想的な状態を目標として設定します。
ディズニーランドのキャストは「夢の国」を実現することを目指していますし、スターバックスのパートナー(スタッフ)は「コーヒーをとおした特別な体験」をお客様に提供することを目指し、自分ごとにしています。
ディズニーランドのキャストもスターバックスのパートナーも高い理想を実現することを意識して働いているので、とっさに自分の工夫でお客様を楽しませたり、喜ばせたりする自発的な判断・行動ができるのです。
OKRは、自分たちは長期、中期、短期でどんな目的で具体的に何を目指しているのかを想い出し、意識しながら仕事をする仕組みなので、社員の主体性を引き出すことができるのです。
OKRで社員の一体感を生み出す
OKRは社員の主体性を引き出すだけではなく、社員同士の一体感も生み出します。
どんなに優秀な人でも、本当に意味のあることは1人では達成できないと言われています。
つまり、人は人と協力し合わないと理想や大きな目標は達成できないということです。
OKRはやる意味のある理想の実現を目標として設定するので、社員の主体性を引き出しますし、協力も生み出します。
社員が主体的で協力し合う組織はある意味最強です。
ですから、OKRは圧倒的な成長を実現できる仕組みです。
それではOKRがなぜ社員の協力を生み出すことができるかというと、単純ですが、設定したOKRの内容とその進捗状況を確認する定期的なミーティングを実施するからです。
定期的とはどれくらいの間隔かというと、それはその会社ごとに決めてよいわけですが、チームであれば推奨されるのは1週間に1回ぐらいが望ましいと思いますが、一人ひとりに任せられる仕事の範囲が広い中小企業では月に1・2回というところでしょうか。
一般的な目標管理制度では、期初の目標設定と期末の達成度合いの評価以外では、半年に1回ぐらいしか上司と部下の面談は行われないことが多いので、ほとんどの人が目標をあまり意識せずに業務を遂行していることが多いと思います。
OKRは、通常他の部署や他の部署のメンバーがどんなOKRを設定して仕事をしているのかOKRを公開して、お互いの状況を確認し合えるようになっています。
企業理念やビジョンの実現を目指し、その実現のために一貫性のあるOKRをそれぞれの部署や個人で設定し、定期的にそのOKRの内容を想い出して、進捗状況を確認し、お互いの状況や課題を確認し合える仕組みをきちんと運用していくと、自ずから一体感と協力が生まれます。
OKRは、チームの仲間や同僚と自分たちの共通の目的や目標、その目標に対する現状、現在の課題、次に取るべきアクションを一緒に検討し、共有する仕組みですから、目標が自分ごとになりやすく、一体感と協力が生まれやすくなります。
そして、組織でPDCAサイクルを回していくことになるので、仕事の質が上がり、組織的に成長を図ることができ、高い業績の実現につながります。
まとめ
OKRは社員の主体性、創意工夫、一体感、協力を引き出す仕組みです。
そして仕組みとしてはとてもシンプルで、定性的な1つの目標とその実現度合を測る数個の重要な結果指標で構成されているにも関わらず、会社全体の長期的・抽象的な目標から、短期的・部分的目標まで目的で有機的につながっていて、本質的に重要な部分が一貫しているので、組織の高い成長とパフォーマンスを生み出します。
ただ、そうした効果を生み出すには、毎週または月に数回など定期的にミーティングを持ち、企業理念、中期ビジョン、経営戦略、設定した目標の内容を想いだし、その目標に対する現状をよく検討し、今の課題は何かを見極め、次にどんな行動をすべきか、メンバー全員ときちんとPDCAサイクルを回すことが重要です。
そのためにも、自分たちは何を目指しているのか、どんな価値をお客様に提供したいかなど、共通の目的をまめに共有することが極めて重要です。
OKRは理想を追いかけ、人材的にも組織的にも効果がたくさん期待できる仕組みです。
まだ導入されていないようでしたら、ぜひトライしてみていただければと思います。
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