課題解決を着実に進める5つの思考プロセス
目次
本当に強い組織とはどのような組織か?
どんな状況であっても前に進むことができ、したたかに生き残り、長期的に発展していける、本当の意味での強い組織(会社)とはどのような組織だろう?
これが、私がこの四半世紀に追い求めてきたテーマです。
なぜこのテーマを追い求めるようになったのかというと、私が36歳の時に自分が勤める会社が経営の失敗でつぶれたからです。
その時に、会社はどんなことがあっても社員を路頭に迷わせるような弱い存在であってはならない、どのような状況であっても、力強く経営を続けていける強い会社にならなければいけないと思いました。
またそれと同時に、自分はそうした本当に強い組織づくりに貢献できる人間になりたいという強い想いが生まれました。
そして自分が勤めていた会社がつぶれた後、精密機械メーカーに職を得て、そこで18年間人事という立場から強い組織づくりを模索し、様々なことにチャレンジしてきました。
目標管理制度の運用強化を図ったり、成果主義的な組織制度(ミニカンパニー制)や人事制度を導入したり、社長塾という経営人材を育成するプログラムを立ち上げたり、マネジャー教育を強化したりなどいろいろなことをやってみましたが、今考えるとどれも表面的な施策で、本当の意味で組織を強くすることとは真逆の、社員が疲弊していくという結果を生んでしまったと思います。
施策一つひとつは会社を強くするという意味では間違っていなかったのだと思いますが、本当に強い組織とはどのような組織なのかという肝心なところが実はまだわかっていなかったのだと思います。
先ほどの精密機械メーカーで働いている途中でコーチングと出会い、5年前に企業の組織・人事課題解決のお手伝いをする会社を立ち上げ、40社ほどの企業を直接支援させていただくという経験を積ませていただいて初めて、本当に強い組織とはどのような組織なのかが私の中で明確になってきました。
その本当に強い組織を私なりに一言で表現すると、「世の中から本当に求められるその組織独自の価値(製品やサービス)を生み出し、提供し続けることができる組織」というのがその答えです。
やはり、世の中から本当に求められる価値(製品やサービス)を創り出し、誠実に提供し続けることができればお客様はついてきてくれますし、厳しいときにはそのお客様に支えられて何とか生き残ることができ、好況期に発展していくことができると思います。
このコロナ禍で全般的に苦戦している飲食業の中でも、お客様が本当に求める料理を提供し続けている会社あるいはお店は行列が絶えないことは皆さんもよく目にしているのではないかと思います。
また、引き算の発想で、顧客に必要な機能だけに絞ったリーズナブルな家電製品や日用品を次から次への開発し、提供しているアイリスオーヤマという会社もまた、このコロナ禍で売り上げを伸ばしています。
そしてこのように世の中から本当に求められるその組織独自の価値(製品やサービス)を生み出し、提供し続けることができるようになるために重要なことは、その組織のメンバー一人ひとりを(特に知恵を)最大限に活かし、メンバー一人ひとりが自分で考え、行動して、結果を生み出せるような仕組みを整えるとともに、その引き出した一人ひとりの力を分散させるのではなく、自分たちにとって今最も重要な課題にその力を集中することができる組織をつくることではないかと思います。
つまり、本当に強い組織とは、世の中から本当に求められるその組織独自の価値を生み出し、提供し続けるという目的を実現しようとする中で、今自分たちにとって最も重要な課題にすべての力を集中できる組織ということができると思います。
人も組織もそうですが、やはり本気になって物事に取り組まないと、独自性が高い価値を生み出し、提供し続けるという難易度の高いことはなかなか実現することはできません。
そして、人間は優秀ですが決して器用ではないので、一度に本気になって力を集中できることというのは、一つか多くても二つでしょう。
ですから、難易度の高いことを追求していきたいと思ったら、今自分や自分たちにとって最も重要な課題を見極め、その最適な解決策を絞り込み、全力を集中していくという姿勢が必要になってきます。
したがって、自分たちにとって今何が最も重要な課題かを見極め、その最適な解決策を絞り込んで、あらゆるリソースを集中するための思考プロセスを組織全体で身につけることがとても重要です。
そしてこの思考プロセスを、私たちは「課題解決を着実に進める5つの思考プロセス」と呼んでいます。
今回は、会社や組織を強くしたい、良くしたいと考えている経営者やキーパーソンの皆さんにぜひ身につけて欲しい「課題解決を着実に進める5つの思考プロセス」についてお話ししたいと思います。
私たちは普段、本当に力を集中すべき重要課題を見極め、最適な解決策を絞り込めていない
私たちは日々いろいろな現実に直面しています。
組織や人材に関することだけでも下記のような問題に対処していかなければなりません。
- せっかく育てた中堅社員が辞めるのをなんとか止めたい
- もっと優秀で、経験もある人材を採用できるようになりたい
- 社員がもっと自分で考え、行動できるようになってほしい
- 社員からもっとたくさん改善提案が出るようにしたい
- マネジャーの経営意識を高めたい
- マネジャーがもっとメンバーを指導し、育成する力を高めて欲しい
- 社員からの処遇に対する不満をなくしたい
- 社員同士が協力し合う組織風土をつくりたい
- 社員の残業を減らしたい
- パワハラやセクハラを無くしたい
などなど。
事業的なことも含めると、売り上げや利益率を上げたい、新製品の開発力を高めたいなどあげ出したらキリがありません。
こうした中から、今の自分たちの組織にとっての最も重要な課題を見極め、その最適な解決策を絞り込み、人や資源を投入して実行し、課題を解決していくことが求められますが、私たちはなかなかそれをうまくできません。
社員のモチベーションを上げるためには、公正な人事制度の構築が必要だということで、コンサルを入れて人事制度をつくってみたけれどもほとんど効果がなく、逆に社員の手間と不満が増えてしまった、ということはよくある話です。
社員のモチベーションを上げるという課題設定は間違っていなかったとしても、モチベーションを上げる方法は他にいくらでもあるはずなのに、人事制度の構築だと思い込んでしまって、やってみたけど何も起こらないということがあまりにも多く生じています。
また、これは私の経験ですが、マネジャーの部下の指導力を上げるためにはコーチング研修が最適だということで、360度評価も絡め、フォロー研修もセットにしたかなりお金のかかったプログラムを実施してみたけど、研修を受けたマネジャーは誰一人としてコーチング的な向き合い方を部下としようとしないということもありました。
マネジャーに対する業績プレッシャーが極めて強い状態を変えずに、コーチングを根付かせようとしても土台無理な話だったのですね。
なぜこういうことが起きるか。
その大きな原因は、まず本当に取り組むべき課題を見極められていないことと、課題だと思い込んだことに対して直接解決策を見つけ出そうとして効果の低い解決策にとりくんでしまうことという、多くの場合2重の誤りをしていることによります。
ただ単に思い付きでものごとを進めているようなことになってしまっているのですね。
でも意外に多くの場面でこのようなことが少なからず生じています。
やはり、会社を良い方向に変えたいと思っている経営者や人事担当者の皆さんは特に、今自分たちにとっての最も重要な課題とその課題を生じさせている真因を見極め、その真因に対する最適な解決策を具体的な基準に基づいて絞り込むスキルを身につける必要があります。
それをかなりの高い確率で実現できるのが、「課題解決を着実に進める5つの思考プロセス」です。
では、この5つの思考プロセスがどのようなもので、何が大事なのかを次に見ていきたいと思います。
課題解決を着実に進める5つの思考プロセス
この「課題解決を着実に進める5つのプロセス」は、下記の5つのプロセスで構成されています。
①目指す姿を明確にする
②目指す姿に対する現状を理解する
③重要課題を見極め、真因を探る
④最適な解決策を絞り込む
⑤最適な解決策の実行計画を立案する
この5つのプロセスを丁寧にたどっていけば、会社全体にかかわる大きな課題でも、目の前の仕事上の比較的小さな課題でも、そしてお客様の課題であってもかなりの高い確率で結果に結びつく課題解決を実現することができます。
多くの場合、問題に対して④から始めてしまい、解決策はこれをやったらよいに違いないと思い込んで、⑤で実施してみるけど効果が生まれないということになっているのです。
それでは、課題解決を着実に進める5つのプロセスについて順番にそのポイントを見ていきたいと思います。
目指す姿を明確にする
この①のプロセスが、課題解決をする上で最も重要なプロセスです。
目指す姿を明確にするというのは、今直面している何とかしたいと思っている問題や状況に対して、どのような状態を実現したいのか、どのような状態になることが理想的なのかを描くことです。
目に浮かぶような状態をイメージしたいので、ビジョンと言い換えても良いかもしれません。
この目指す姿は、
・目的
・3年後、1年後、6か月後などのある時点で実現したい理想の状態(目標あるいは結果指標といっても良いと思います)
の2つで構成されています。
そしてこの2項目目の理想的な状態を描くことがとても重要なのですが、要するに目指す姿が実現できたかどうかを測れるように、できるだけ具体的に数字や期限なども入れて、定量的に表現することがポイントです。
目指す姿に対する現状を理解する
そして、目指す姿を描けたら、その目指す理想の状態に対して、現状がどうかを見ていきます。
要するに、目指す理想の状態に対して、今できていること、できていないことを明確にします。
会社全体の課題を検討している場合は、機会、脅威、強み、弱みのSWOT分析を使って、会社の現状を見ていく場合もあります。
いろいろな切り口を設定しながら、現在できていることとできていないことを客観的に把握します。
重要課題を見極め、真因を探る
目指す姿に対して、現状をつぶさに理解すると、当然目指す姿と現状のギャップが見えてくることになり、そのギャップすべてが課題です。
ただ、すべての課題に取り組むことはできないので、課題の中でも今重要で影響の大きな課題を見極めます。
そして、今取り組むべき重要な課題を見極めることができたら、その課題が生じている原因を明確にします。なぜを繰り返し、大本の原因(真因)にたどり着くことが理想です。
最適な解決策を絞り込む
③で明らかになった課題が生じている真因に対しての解決策をできるだけたくさん発想します。
できるだけ多くの関係者と発想してみるとよいと思います。
その発想した解決策の中から、効果が高く、実現性が高いと考えられる解決策を絞り込むため、絞り込むための基準を決めて点数化など表にして、関係者が納得する形で取り組むべき解決策を決定します。
最適な解決策の実行計画を立案する
取り組むと決定したそれぞれの解決策について、主に5W1Hで実行計画を立案します。
誰が、何を、いつまでに、どのように実行するのかを明確にして、できればガントチャートなどに落とします。
そして、計画が決まったら、定期的に進捗状況を確認して、PDCAサイクルを回し、課題解決を確実なものにしていきます。
以上が「課題解決を着実に進める5つのプロセス」のポイントです。
いかがでしょうか。課題を解決できそうなイメージが持てたでしょうか。
思いつきでなく重要課題を見極め、適切な解決策を実行するためには、問題の大きさや難易度にかかわらず、経験的にこのプロセスが最も着実なやり方だと思います。
コーチングがベースにしているGROWモデルとほぼ同じプロセスです。
この5つのプロセスに沿って思考していけば、取り組むべき課題を見誤ることなく、効果が見込める解決策を実行でき、目の前の課題を解決できる確率が一気に上がります。
あるメーカーの課題解決の事例
それでは、200名規模の電子機械メーカーのT社が5つの思考プロセスを使って組織・人事課題を見極め、解決策を絞り込んだ事例を見てみましょう。
この企業は独自性の高い差別化された製品を持っており、業績は世界的な需要の波にも乗って順調ですが、今後を考えると、新製品を創り出していくことを支える人材に不安を感じていらっしゃいました。
組織・人事課題解決プロジェクトは、人事・総務のリーダーと数人の意識の高い技術・営業のマネジャーで進めていくことになりました。
目指す姿を明確にする
まずこのプロジェクトでは何を目指すのかを明確にするため、下記のように目的と3年後に実現したい会社の具体的な姿を言語化しました。
[目的]
T社が世の中から求められる価値を創造し続け、力強く成長し続けるための人財基盤を整備する。
[3年後に実現したい会社の理想的な姿]
- 経営方針、組織目標、個人目標を一貫性を持って設定し、社員全員が自分の仕事に意味や意義を感じられるようになる。
- 社員全員が挑戦的な個人目標を設定し、目標達成に向けてやりがいをもって仕事に取り組めるようになる。
- 社員に期待を伝え、社員が主体的に成長できるようになる。
- 管理職(リーダー)が面談や普段のコミュニケーションをとおして、社員の主体的な成長を支援できるようになる。
- 社員の主体的な学びを支援する教育制度が整備されている。
- 社内外に会社の魅力を効果的に伝え、毎年10名のエンジニアを安定的に採用できるようになる。
目指す姿に対する現状を理解する
上記①で設定した3年後に実現したい会社の理想的な姿と対比する形で、現状でできていること、できていないこと(ほとんどができていないこと)と課題(目指す姿と現状のギャップ)を抽出した主な内容が下記の内容です。
- 会社がやろうとしていることの背景にある目的や意味が社員にうまく伝わっていない。
- 経営方針(経営理念、中期経営計画)、組織目標が一貫性のある内容で社員にうまく提示できていない。
- 社員は目の前の仕事の先にある目的やゴールをうまく見出せず、仕事にやりがいを感じづらい状態になっている。
- 管理職(リーダー)はメンバーに対する関心が薄く、リーダーとメンバー、メンバー同士の仕事を通じたコミュニケーションの量と質が足りていない。
- 管理職(リーダー)は、メンバーに対する目標設定支援力、育成力、成功体験を積ませる力(コーチング力)をまだ身につけられていない(今までマネジャー研修をほとんどやってこなかった)。
- メンバーが気軽に質問したり、意見を言ったりすることができる「安心できる組織文化(主に心理的安全性)」の醸成への取り組みがまだ不十分である。
- T社の良さや魅力を効果的に外部の人材に伝えることが、十分にできていない。
- 採用環境の厳しさに対して、採用体制がかなり脆弱。
重要課題を見極め、真因を探る
上記②の現状の理解の内容を踏まえて、重要課題を下記の3つに絞りました(真因の内容については割愛します)。
- 経営方針と組織目標・個人目標が一貫性をもって設定されておらず、社員が自分の目標達成や目の前の仕事に意味を感じられない状態になっている。
- 管理職(リーダー)が、メンバーが主体的に成長し、成功体験を積み重ねることを支援できるようになっていない。
- 社員が気軽に、安心して思うことを発言できる組織文化(心理的安全性)が醸成されていない。
最適な解決策を絞り込む
上記③での3つの重要課題に対する解決策をプロジェクトメンバーで発想し、最終的に次の5つの解決策に総合的に取り組むことになりました。
- 経営方針と一貫性を持った目標管理制度の構築と効果的な運用
- 会社の期待を明確にし、社員の主体的な成長を促す人事制度の再構築と効果的な運用
- メンバーの主体的な成長と成功を支援するマネジャーとメンバーの定期的な面談の実現
- 社員の主体的な学びを支援する教育制度の構築と効果的な運用
- 会社の魅力を効果的に伝える採用マーケティングを実現できる採用体制の整備
最適な解決策の実行計画を立案する
上記④で絞り込んだ課題解決策に対して、具体的な実行計画を策定しました(内容については割愛)。
いかがでしょうか。
具体的に、「課題解決を着実に進める5つの思考プロセス」に沿って課題解決を進めていくイメージできたでしょうか?
ある程度分かり切っているような内容であっても、このプロセスを踏み、その内容を5つのプロセスの順番で説明すると、非常に社員の皆さんの納得感が高まり、「よしやろう」という組織全体の意欲を高めることができ、プロジェクトが成功する確率が高まります。
まとめ
私たちは、日々解決しなければならない課題を抱えています。
そのような中で、今自分たちが取り組むべき最も重要な課題を見極め、その最適な解決策を絞り込んで、自分たちの力を分散させずにその一点に集中させるというアプローチがとても重要です。
いろいろな課題が複雑化、高度化していて、小手先の対応では課題解決ができないからです。
しかし、私たちは、最重要課題を見極め、その課題に対する最適な解決策を絞り込み、計画的に取り組んでいくという段取りを丁寧に踏んだ進み方が結構苦手ですし、できていない場合が多く、思い付きで解決策を実行していることが少なくないのです。
そうした思い付きによる課題解決策の実行による失敗を避けるための思考プロセスが、下記の「課題解決を着実に進める5つの思考プロセス」です。
①目指す姿を明確にする
②目指す姿に対する現状を理解する
③重要課題を見極め、真因を探る
④最適な解決策を絞り込む
⑤最適な解決策の実行計画を立案する
この5つのプロセスを丁寧に、納得しながら進んでいけば、かなり高い確率で、結果に結びつく課題解決を実現することができます。
というよりも、結果に結びつく課題解決を実現するためには、このプロセスをたどるしかないとも言える、普遍的な思考プロセスです。
ぜひ、取り組んでみていただければと思います。