失敗しない、確実に効果を生む人事制度のつくり方
目次
せっかくつくった人事制度がうまくいかない!
最近、人事制度を新しくつくるお手伝いや現在ある人事制度の改定のお手伝いをすることがとても多くなってきました。
企業が抱える組織・人事課題の中でも、人事制度を新しくつくりたい、改定したいというご要望はかなりの割合を占めていると思います。
「特に問題があるわけではないが、人材を採用するにあたって人事制度を整備しておきたい」
「メリハリのある賃金制度に変えることによって、社内を活性化したい」
「今の人事制度は10年前につくったもので、時代に合わせて新しいものにつくり変えたい」
「今まで社長が鉛筆なめなめ評価してきたが、明確な基準に基づいて評価できるようにしたい」
動機はさまざまですが、人事制度を新たにつくりたい、改定したいと思って、他社の制度を調べたり、人事制度のパッケージを提供している会社に相談したり、組織人事コンサルに依頼したりして人事制度づくりに取り組むのではないかと思いますが、これがなかなかうまくいかないというケースが不思議なくらい多いのです。
弊社が支援して3年が経つある企業の経営者も、「人事制度づくりに挑戦して2回断念して、御社に手伝ってもらってやっと納得できる人事制度を導入することができました」とおっしゃっています。
ポイントは、人事制度づくりに挑戦して2回断念したというところです。
せっかく時間とお金をかけてとても精緻な人事制度をつくったのに、どう考えても社員が受け入れるとは思えない、制度が複雑すぎて運用できない、とりあえず使っているが効果が出ているとは思えないなど残念な結果になることが結構あるのです。
人事制度がうまく機能しないのには当然理由があります。
そして、人事制度づくりによって社内に良い効果を生み出すためには、もちろん押さえておかなければならない重要なポイントがあります。
人事制度がうまくいかない理由と人事制度づくりで良い効果を生み出す重要なポイントは表裏一体です。
今回は、人事制度がうまくいかない最大の理由、自社に合う、確実に効果を生む人事制度づくりの最重要ポイント、そしてその人事制度づくりのプロセスについてお伝えしたいと思います。
人事制度がうまくいかない最大の理由
人事制度がうまくいかない理由としては、大きく分けると人事制度の内容そのものの問題、人事制度の導入の仕方の問題、人事制度の運用の問題の3つがあげられます。
その中でも人事制度がうまくいかない最大の理由は、人事制度の内容そのものの問題が大きく、単純に言うと、自分の会社に合っていない人事制度づくりをしてしまうからです。
よくあるのは、他社で成功した人事制度をそのまま導入したような場合です。
人事制度はあくまでも自社内に良い効果を生み出すための道具です。
道具がどんなに優れていても、他社が使ってうまくいったものだとしても、自社に合うとは限りません。
もちろん他社でうまくいった人事制度を参考にすることは大変良いことだと思いますが、やはりそれを大いに参考にしながら、自社の価値観、ニース、状況に合った人事制度をつくる必要があります。
また、自社に合わない人事制度を導入してしまう例としては、人事制度のパッケージを売るベンダーが推奨する人事制度を言われるままに導入してしまうケースです。
ベンダーが提供する人事制度は、多くの企業でうまくいっている最大公約数的な制度なので、その内容自体は完成度が高く、精緻にできていると思います。
ですから、ベンダーが提供する人事制度そのものは悪いものではありませんし、むしろ素晴らしい制度だと言えます。
ただし、その素晴らしい制度もそのまま導入しようとすると自社にはフィットしない部分が当然出てきます。
精緻にできている分、自社に合わない部分が多く出てくる可能性があり、それをそのまま導入すると、やらなくてもいいことを大変な労力をかけてやらなければならず、社員の納得感が得られずに人事制度が効果を生み出さないということになってしまいます。
最悪の場合はせっかく高い費用をかけた人事制度の運用を断念してしまうという事態が生じる場合もあります。
また、自社に合わない人事制度をつくってしまうケースとしては、人事制度はこうあるべきだと硬直的な考え方にもとづいてコンサルする組織人事コンサルタントに当たってしまう場合です。
この場合、組織人事コンサルタントの頭の中には人事制度の正解があって、それをクライアントに適用しようとします。
人事制度のベンダーが推奨するパッケージの人事制度を導入するのと同じことが起こります。
いずれにしても、せっかくつくった人事制度がうまくいかない理由としては、自社の企業理念やニーズ、状況に合わない人事制度を導入したことによります。
要するに、他社で成功したものやベンダーやコンサルタントが推奨しているものを鵜呑みにせず、それらを参考にしながら自社に合った人事制度をつくろうと最初から覚悟することがとても重要です。
それでは、自社に合った、効果的な人事制度をつくるにはどうしたらいいのでしょうか、そして何がポイントなのでしょうか。
次にそのことについてお伝えしたいと思います。
自社に合い、確実に効果を生む人事制度づくりの最重要ポイント
自社に合った人事制度をつくるためにまず肝に銘じておかなければならないことは、正解は自社の外にはないということです。
つまり、自社に合った人事制度をつくり、自社が求める効果を生み出すためには、自分たちは人事制度を何のためにつくり、どんな効果を得たいのかという、人事制度づくりの自社の目的とゴールを自ら考えて、明確にすることが必要です。
とても当たり前に聞こえるかもしれませんが、この人事制度づくりの目的とゴールを考え抜かないままに、人事制度づくりに取り掛かっているケースがとても多いのです。
・年功的な仕組みを改めるにはどうしたらよいか
・管理職になると一般職の時の年収よりも下がってしまうがどうしたらよいか
・等級基準と評価基準を見直したいがどうしたらいいか
・今のトレンドに合わせて初任給をアップしたいが、既存の社員の給与はどうしたらいいか
など、手段である人事制度の個別の内容そのものの見直しから入ってしまうのです。
どんな場合でも良い状態を生み出すための取り組みをする場合には、目的があり、目的を実現するためのゴール(目指し理想の状態)があって、ゴールに到達するための手段(この場合は人事制度)があるという構造になります。
目的とゴールが明確になっていないので、その手段をどうしたらいいのかをいくら話し合っても適切な答えは出てきません。
目的とゴールが違えば、当然最適な手段やその内容は違ってくるからです。
たとえば、人事制度を改定しようと思ったとき、社員をチャレンジングな行動ができるように変えたいという目的の場合とミスなく正確な仕事をする姿勢に変えたいという場合では、人事制度の内容は大きく違ってくるはずです。
人事制度をつくる目的やゴールは、それぞれの会社の重要な考え方や価値観などによっても違ってきますので、同じ業界であっても、他社が成功した人事制度をそのまま真似してもうまくいかないということが起こります。
ですから、人事制度をつくろうと思った場合は、自社にとっての人事制度をつくる目的、その目的を実現するためのゴール(目指す理想の状態)、人事制度をこんな風に変えたいという具体的方向性の3つのことを明確にした「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」をまず決めて、人事制度の具体的な内容の検討に入っていくことが重要です。
それでは、自社の重要な考え方や価値観を踏まえ、また自社の現在のニーズや状況を踏まえた上で、確実に効果を生み出すための「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」をどのように明確にしたらよいのでしょうか。
その失敗しない検討のプロセスを次にお伝えしたいと思います。
自社に合い、確実に効果を生む人事制度づくりのプロセス
自社に合い、確実に効果を生む人事制度をつくるためには、自社の企業理念、ビジョン、経営戦略、現状などを踏まえて、上流から丁寧に検討し、人事制度をつくる目的とゴール、新しい人事制度の具体的な方向性を明確にした「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」を策定することが重要です。
この「基本方針」を自社の目指している方向と現状に合わせてつくることができれば、あとは人事制度の詳細設計に入っていけばよいのです。
そのプロセスを概観すると、下記のようになります。
- 企業理念が目指していること、大切にしている考え方や価値観などを再確認する
- 企業理念にもとづく、3~5年後のありたい会社の理想の姿(中期ビジョン)を描く
- 中期ビジョンに対して、現状がどうか検討する
- 中期ビジョンを実現するための経営戦略(顧客戦略、商品・サービス戦略、地域戦略、人材戦略、組織戦略など)を立案する
- 経営戦略を実現するための「人材・組織ビジョン」を明確にする
- 「人材・組織ビジョン」に対する現状を検討する
- 人事制度はどうあるべきか「人事制度構築基本方針」「人事制度改定基本方針」を明確にする
- 「人事制度基本方針」にもとづいて、等級制度、評価制度、報酬制度などの詳細設計に入る
それぞれについて説明していきたいと思います。
①企業理念が目指していること、大切にしている考え方や価値観などを再確認する
まず最初に、自社の企業理念の重要な考え方や価値観をあらためて確認します。もし企業理念がない場合は新たに創ることになります。
事業展開をする上での重要な価値観や人に対する重要な考え方などをプロジェクトメンバーでしっかりと確認します。
②企業理念にもとづく、3~5年後のありたい会社の理想の姿(中期ビジョン)を描く
次に、あらためて確認した企業理念の重要な考え方や価値観とプロジェクトメンバーそれぞれが大切にしたい考え方や価値観の両方を大切にしながら、3~5年後の自社のありたい理想の姿(中期ビジョン)を描きます。
自社のありたい理想の姿(ビジョン)とは、お客様や社会に対してこんな優れた価値を提供できる、こんな会社になりたいという具体的なイメージです。
例えばこんな感じです。
これは弊社が支援している交通誘導専門の警備会社の3年後ビジョンです。
スローガン:200人の社会貢献、安全・安心・笑顔を守る
- 提供価値:クライアント・地域住民・仲間に感謝される気配り・誘導・対応
- 組織の成長:2級検定資格者50%以上のプロ集団
- 実現したい成果:200人の信頼できる仲間、退職者ゼロ、2支店開設
自分たちは何を大切にしながら、世の中にどんな価値を提供し、そのためにどのような会社に成長し、具体的にどんな結果を生み出したいかということを企業理念にもとづきながら、企業理念よりも具体的に描きます。
ただポイントは、3~5年後を見据えて、具体的にと言ってもあまり細かすぎないように描くということです。
③中期ビジョンに対して、現状がどうか検討する
中期ビジョンが描けたら、その中期ビジョンで掲げたことに対して自社の現状がどうかをできるだけ俯瞰しながら客観的に検討します。
中期ビジョンで掲げたことを分解し、項目ごとに現状はどうか、SWOT分析などのフレームワークを使いながら、強み・弱みなどを切り口にまとめるとよいと思います。
④中期ビジョンを実現するための経営戦略を立案する
中期ビジョンに対する現状分析ができたら、中期ビジョンと現状のギャップが明確になるので、そのギャップを埋めるためにどうしたらよいかということを、顧客、商品・サービス、地域貢献、人材、組織などの切り口で検討します。
これが3~5年後を見据えた中期ビジョンを実現するための経営戦略になります。
⑤経営戦略を実現するための「人材・組織ビジョン」を明確にする
経営戦略を立案できたら、経営戦略を実現するためにはどんな人材や組織が必要かを明確にした「人材・組織ビジョン」を描きます。
この「人材・組織ビジョン」を描くことが、人事制度づくりの方向性を決める上でもっとも重要なポイントになります。
「人材・組織ビジョン」は、経営戦略を実現するために、どのようなマインドで、どんな経験を持ち、どんなことができる人材がどのくらい必要か、そのためにどのような組織や人間関係、組織風土にしたらよいかなどを明確にします。
⑥「人材・組織ビジョン」に対する現状を検討する
中期ビジョンに対して会社の現状をつぶさに見たように、「人材・組織ビジョン」に対して現状はどうかつぶさに検討します。
「人材・組織ビジョン」で描いた人材や組織の理想像に対して、現状の人材、組織、人間関係、現行の人事制度などについての強みや不十分なところを明らかにします。
⑦人事制度はどうあるべきか「人事制度構築基本方針」「人事制度改定基本方針」を明確にする
経営戦略を実現するための「人材・組織ビジョン」が描け、「人材・組織ビジョン」に対する現状が明らかになったら、当然そこにはギャップが生じますので、そのギャップを埋めるための課題の解決策が「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」になっていきます。
基本方針は、なぜ今人事制度の改定するのか、その目的を設定し、その人事制度を整備することによって自社内にどんな状態や効果を生み出したいのかというゴールを明確にし、具体的にどのような人事制度つくっていきたいのか、その具体的な方向性を明確にします。
これが等級制度、評価制度、報酬制度を具体的な検討をしていく際の基準になってきます。
自社に合い、確実に効果を生む人事制度をつくる際の羅針盤になります。
検討していて迷ったときは、必ずこの「基本方針」に戻ります。
それでも答えが出ないときは、「人材・組織ビジョン」や経営戦略まで遡ってそもそもなにを目指しているのかを確認することもあります。
⑧「人事制度基本方針」にもとづいて、等級制度、評価制度、報酬制度などの詳細設計に入る
人事制度基本方針ができたら、あとは具体的に等級制度、評価制度、報酬制度などの検討に入っていきます。
そしてこの段階では、等級基準を明確にすることが最も重要です。
この等級基準が自社の価値観や経営戦略にそって明確に表現できれば、後のプロセスは比較的スムーズに進みます。
プロジェクトメンバー全員が腑に落ちるように、しっかりと妥協せずに検討することが重要です。
まとめ
残念ながら、人事制度をつくろうとして途中で断念する、導入したが効果が現れないなどの例は後を絶ちません。
その最大の理由は、他社で成功した人事制度やベンダーやコンサルタントが推奨する人事制度をそのまま導入してしまうなど、自社に合わない人事制度をつくってしまうからです。
人事制度というツールであっても、自社の外に正解があると思っては失敗します。
やはり、自社に合い、確実に効果を生む人事制度をつくるためには、自社の考え方や価値観、今置かれている状況、人材や組織の現状などをよく踏まえて、他社の事例を参考にしながら自社にフィットした、ある意味オリジナルの人事制度をつくることが重要です。
そのためには、この人事制度をつくる理由は何か、人事制度をつくることによってどのような理想的な状態を生み出したいのか、そのためにどんな人事制度を志向したらよいのかなどを明確にした「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」を策定する必要があります。
そして、「人事制度構築基本方針」または「人事制度改定基本方針」を策定するにあたっては、会社の経営方針である企業理念やビジョン、経営戦略など上流からしっかりと方向性を確認しながら、その経営方針の実現を後押しする人事制度をつくる丁寧なプロセスが重要です。
人事制度はあくまでも自社内に良い効果を生み出すためのツールです。
ツールを活かすには、自分たちに合ったツールをつくる必要があります。
そのためには上流からの丁寧な検討が必要で、その手間を惜しまなければ、自社に合った、確実に効果を生む人事制度を手に入れることができるでしょう。