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企業視察レポート:東日本大震災で1日も営業をとめなかったスーパーチェーン(株式会社マルト)― 社員が自発的に動く組織づくりの秘訣

 
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はじめに

 

経営者であれば、社員が細かい指示をしなくてもお客様のために自ら考え、適切な行動ができるようになって欲しい、要するに社員が主体的にお客様のために働くことができる組織を理想と考えているのではないでしょうか。

 

経営の究極の目指す状態と言えるかもしれません。

 

ではどうしたら、そのような自律型の組織をつくることができるのでしょうか。

 

そんな会社が福島県のいわき市にあります。

 

福島県いわき市に24店舗、茨城県に13店舗を展開する、地域密着型のスーパーチェーンの株式会社マルトホールディングスです。

 

東日本大震災では地震だけではなく、福島第一原発の放射能漏れでかなり影響を受けた地域ですが、東日本大震災が発生したとき、ほかのスーパーチェーンが営業していない中、マルトの社員の皆さんは、経営者が指示したわけでもないのに、自主的に判断し、1日もとめずに店舗の営業を続けたという逸話が残っている会社です。

 

その背景には、経営者の哲学と組織文化に根差した「人を活かす経営」がありました。

 

2025年5月19日にマルトを視察させていただき、3月末まで常務を務められた石山監査役のお話をうかがいました。

 

社員の皆さんが自律的に働ける秘密を中心に、マルトの基本理念や考え方、事業展開の特徴、現在の課題などをレポートしたいと思います。

石山伯夫監査役

 

経営理念は「幸せを創造する企業づくり」

 

マルトの経営理念は、「幸せを創造する企業づくり」。

 

創業者である故安島会長と奥様の安島副会長は、社員を「わが子」として扱い、経営の根幹に「人づくり」をすえてきました。

 

またお客様のことも単純に商品を買っていただくだけの関係ではなく、「お客様という名の友人をつくる」という社是にも表れているように、同社は人としての関係性の構築をとても大事にしています。

 

こうした家族的で、人間性尊重の考え方が社内に徹底されていて、社員の皆さんにとって仕事がただ生活費を稼ぐためのものではなく、家族のような同僚や友人同様の客様のために行っていることであり、自分の生活または人生と一体化していて、東日本大震災のような災害が起こった時でも、「できることをやろう!」と自然に身体が動いたのではないかと思います。

 

自律的に考え、行動できる社員を生み出すためには、やはり人を尊重し、大切にすることを経営の中心におき、自分たちは同僚、お客様、地域の人々のために働いているんだという想いを共有し合うことがとても重要ではないかと思います。

 

お金のためだけに働いていたら、未曽有の災害が起こったときは指示がなければほとんどの人が出社はしないでしょう。

 

ここから、企業にとって人を大切にする、人間として尊重する理念を掲げ、共有することがいかに重要であるかがわかります。

 

それではマルトはどのようにして4800人もいる社員に理念を浸透できたのでしょうか。

 

幹部が社員のもとに足を運ぶ組織風土

 

このことを講演の中で石山監査役に問いかけさせていただきましたが、マルトの会長、副会長、役員など幹部の皆さんが店舗に出かけて行って、社員さんと他愛もないコミュニケーションを取ることを心がけているからだと思うとおっしゃっていました。

 

特別な場を設けてスピーチなどで伝えているわけではないのですね。

 

やはり幹部の皆さんが足を運び、声をかけるという行為自体が、社員の皆さんを人として(道具としてではなく)大切にしているということが伝わり、それがメッセージになっているのだと思います。

 

安島副会長などは、年末に店舗に出かけて行って年末のあいさつをして、数日もたたない年明けにまた店舗に出かけて行って年始の挨拶をするそうです。

 

そうした経営者の行動が、社員を大切にして、人間としてやるべきことや必要なコミュニケーションには時間を惜しまないという価値観や社風を生み出しているのだと思います。

 

人間性を磨く教育に注力

 

マルトは人を大切にする会社ですが、特に故安島会長は「人づくり」こそ経営者の仕事であると信じて、全精力を傾けてきました。

 

「人が価値をつくり、人が人を呼び、人が企業のブランド(人気)になる」という考え方から、商売に関する教育はもちろん、躾や道徳(人を大切にする心)など人間性を磨きあげる教育にも注力されてきたようです。

 

質で勝負するメリハリのある経営

 

マルトでは、今「生活の変化に付加価値をつけた商品を提供」することを基本方針にしています。

 

少子高齢化という大きな流れの中で、薄利多売のビジネスモデルではなく、「質の競争」にシフトしています。

 

商品に「上中下」というランクがあるとしたら、「中」の商品で競合店に勝つことに重点を置いていて、「商品の開発と売り方」に注力しています。

 

日本一おいしいと言われる、おにぎりやからあげ、ピザ、そして見栄えの良い工夫されたフルーツやスイーツなどを提供して、差別化を図っています。

 

そうした質の追求、付加価値の高いサービスの提供、利益率の高いプライベートブランドの販促などと並行して、業務の効率化、生産性向上にも注力しています。

 

訪問させていただいた平尼子店は駐車場も広く、大型の店舗ですが、ほとんどのレジが人がいっさい介在しないフルセルフレジで、有人レジは数台しかありませんでした。

 

本質的なサービスには人の手を、効率化できるところにはテクノロジーを ― そうした経営のメリハリが際だっています。

 

マルトの最大の課題:人材の確保

 

マルトの現在の最大の課題はやはり人材の確保です。

 

マルトは積極的な店舗数の拡大も図っているので、新店を出す際には当然求人を出すわけですが、思ったようには応募がないのです。

 

方針としては、毎年大卒20名、高卒20名ずつを採用したいと考えているそうですが、残念ながらその半分の10名ずつぐらいしか採用できないそうです。

 

地元から都市部に出ていった若者が戻ってこない、戻ってきたとしても残念ながらスーパーで働くことをあまり希望しないという状況です。

 

新店の出店もありチェーン全体の売り上げは拡大しているのに、社員数全体は減っているとのことです。

 

ですから、レジもセルフレジの導入を思い切って進めています。

 

お客様を友人のように大切に思っている会社ですから、本来は有人レジで対応したいところだと思いますが、時代の流れにも対応していかなければならないと思います。

 

それでは、採用が難しい中どのように対応されているのでしょうか。

 

この質問に対して石山監査役は、留学生にフォーカスしているとのことでした。

 

優秀な留学生に個別に声をかけるなどして、まずはアルバイトで働いてもらい、採用に結びつけようとしているとのことでした。

 

まとめ

 

イレギュラーな事態が発生したときに、社員が自ら判断して、適切な行動ができるようになるには、日ごろからどのような価値観で人や仕事に向き合っているかにかかっていると思います。

 

そのためにはやはり人を大切にする、社員を人としてその存在を認め尊重することを理念に掲げ、経営トップをはじめとした幹部の皆さんがそれを実践し、そうした考え方と行動様式を社内にくまなく浸透させていくことがベースになると思います。

 

幹部の皆さんが足しげく社員の皆さんのもとに通い、コミュニケーションを取り、具体的な事象に沿って伝えていくというマルトのやり方は、一つの参考になると思います。

 

やはり普段から大切にし、自分ごとになっている価値観が、重要な局面でものを言うと思います。

 

会社の重要な価値観を社内で共有する方法は無数にあり、それぞれの会社に合った、自分たちらしいやり方を工夫することが重要だと思います。

 

優良企業からは「あり方」を学び、「やり方」は自分たちに合った方法を創り出すことこそ、これからの組織づくりに求められる姿勢ではないでしょうか。

 

当社では、それぞれの企業の人材や組織に関わる課題解決の方向性を整理する個別相談を行っています。

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