社員が定着する魅力的な会社のつくり方
目次
はじめに
今、人材が定着せず人手が足りないため、せっかく仕事を受注しようと思えば今以上にできるのに、事業の成長機会をうまく活かせない企業が増えています。
もともと、建設、宿泊、飲食、医療・介護などの業界はコロナ前から人手不足感が高かったのですが、現在メーカーでも人材採用に苦戦していますし、好調なIT系の企業であっても、必要な人材を確保できない状況にあります。
少子高齢化が進み、本当にひとにぎりの有名・人気企業を除けば、ほぼすべての業界の会社が人材採用難、離職率の高まりなどに直面しています。
とても良い事業内容の会社なのに、求人を出しても全く応募がないということはいくらでもあります。
今後、事業を長期的に継続し、できれば会社を成長させていきたいと考えていたら、人材採用の競争力を高めるとともに採用した人材の定着率を高め、今いる社員を最大限に活かしていくことが最重要の経営課題になります。
そして、採用競争力を高めるためには、まず既存の社員が長く働きたいと思い定着する、本当の意味で魅力的な会社をつくることが何よりも求められています。
社員が定着する魅力的な会社とは
それでは、社員が定着し、長く活躍してくれる魅力的な会社とはどのような会社なのでしょうか。
社員の定着率を高めようと思ったとき、人事制度や教育制度の整備、福利厚生の充実などをまず考えるかもしれません。
ただし、こうした外側からモチベーションを高めようとする仕組みを整備したとしても、中小企業であれば大企業にはかないませんし、どんなに良い制度を整備し、福利厚生を手厚くしても上には上がいます。
そして何よりも制度の整備や福利厚生の充実は、不満をある程度無くすことはできますが、積極的に社員に満足を感じさせるプラスの効果を生み出すことは、制度を入れたり充実しただけでは基本的にはできません。
では社員の働く満足を高め、定着率が高まるような魅力的な会社になるためにはどのようなことが重要なのでしょうか。
多少給料が他社より安くても、制度や福利厚生がそんなに整っていなくても働き続けたいと思えるような会社、つまり社員がその会社で働く意義を見出し、自分の内側からのモチベーション(内発的なモチベーション)を高め、やりがいを感じながら主体的に働けるような会社になることです。
そんな夢のような会社づくりができるのかと思うかもしれませんが、そのような会社を目指して何年もかけてそうした会社をつくろうと常に地道な努力を続けていかなければ、ある日突然人材が圧倒的にいない、欠員を全く埋められないという事態で事業が立ち行かなるということもあり得る時代になってきています。
仕事はあるけど人がいないため、受注できない、事業を縮小せざるを得ないという状態です。
たとえ困難であっても、社員が仕事することそのものに意義とやりがいを感じ、この会社で長く働きたいと思うような会社になることを目指す必要があります。
社員が仕事そのものに意義を感じ、長く働きたいを思う会社
人間には、「自分の存在を認められたい、社会に少しでも良い影響を与えることができる価値ある存在でありたい」というとても根源的と言ってよい欲求を持っています。
人間は、誰かや世の中の役に立ちたいと心の底で願っている存在ですし、人の役に立てたと実感できたとき最高の充実感や満足感を感じることができます。
これは皆さんも実感されていると思いますが、自分がした行為によって誰かが喜んでくれたり、感謝してくれたりした時最高にうれしいのではないでしょうか。
ですから、社員が仕事をすることによって誰かの役に立つ、社会に貢献しているということを実感できるような仕事のさせ方や環境を整えてあげれば、社員は内発的モチベーションを高め、自分がしたことによってお客様や同僚に喜んでもらえて、仕事にやりがいや充実感を感じるようになり、そんな環境を与えてくれるこの会社でできるだけ長く働きたいと思うようになります。
単純に言えば、会社が事業をとおして社会に貢献することを明確に打ち出し、その事業に社員を巻き込んでいけばよいということです。
社会の役に立つ会社になるためにはまず企業理念を明確にする
社会の役に立つ会社になるためには、まずどのようにして社会に役に立つのか宣言することが必要です。
その宣言を表したものが企業理念です。
企業理念は一般的に
基本理念(存在意義)
経営理念
行動規範
で構成されています。
基本理念(存在意義)は、自分たちの会社はこの世の中に何のために存在しているのか、何をもって社会に貢献したいのかを明確にした、その会社の最も基本的な考え方、価値観です。
2番目の経営理念は、基本理念を実現するために会社は何を大事にして会社を経営するのかを表した、基本的な経営方針です。
そして、3番目の行動規範は経営理念を実現するために社員はどのような基本的な価値観にもとづいて行動するのか、行動して欲しいのかを表したものです。
この会社が何のために事業をし、どのような経営を目指し、社員はどのような考え方で行動するのかという会社の基本となる考え方や価値観が明確になっていなければ、まずこの企業理念を構築することが、社会の役に立つ会社になるための第一歩になります。
そして、社員が働く意義を感じ、やりがいと充実感を持って働く本当に魅力ある会社をつくるための中心軸になります。
社員がやりがいと充実感をもって働くことができる組織的な土台づくり
社会の役に立つことを明確にし、宣言した企業理念を策定できたとしても、それだけでは社員がやりがいと充実感を持って働くという状態は生まれません。
自分が担当し、行っている仕事が最終的には企業理念の実現につながっていることがわかり、主体的に仕事に関わっていけるような組織的な土台をつくる必要があります。
この組織的土台は3つあります。
1つ目は、「安心できる組織文化」
2つ目は、「一貫性のある目標設定」
3つ目は、「社員の自律を促すマネジメント」
この3つが、社員が自分の仕事に意義を感じ、主体的に仕事に取り組んで、やりがいと充実感を持って仕事ができるようになる重要な組織的な土台です。
この3つの組織的な土台を丁寧につくっていくことが、企業理念を明確にした後、社員が本当に魅力を感じ、定着し長く働きたいと思う会社をつくるために、取り組んでいかなければならないことです。
それでは、3つの組織的な土台をつくっていくにはどうしたらよいかを見ていきましょう。
「安心できる組織文化」をつくる
安心できる組織文化とは、一人ひとりが人としてその存在を認められ、気兼ねなく思っていることを発言したり、その発言を必ず受け入れてくれるようないつも安心していられる人間関係が生じている状態です。
仲の良い、フラットな関係の家族のような状態と言ってもいいかもしれません。
安心感があると人は積極的に考え、行動できるようになり、結果にも結び付きやすくなるので、自分の行動や仕事にやりがいを感じられるようになるので、安心感は人間が主体的なるための前提になります。
安心感のない環境では、人は委縮してなるべく失敗しないように積極的なことや挑戦的なことはしないようになります。そうすると仕事はほとんどが指示に基づいた仕事になるので、ただこなすだけで満足感ややりがいは感じられないことが多くなります。
安心できる組織文化をつくっていく上で一番影響力があるのが、経営者やマネジャーなどの上に立つ人です。
家庭の雰囲気や状態をつくっているのが、父親や母親であるように、組織の雰囲気や状態を生み出すのに一番影響を与えているのがマネジャーですし、会社全体の雰囲気や状態に一番影響を与えているのはやはり社長です。
したがって、安心できる組織文化をつくるためには、経営者やマネジャーが、メンバー一人ひとりを人として(道具としてではなく)その存在を無条件に認め、メンバーの発言や意見にしっかり耳を傾け(傾聴)、メンバーの事情に配慮し、良い意見は自分のことのように実現に向けて努力するという言動を普段から心がけ、メンバーが気兼ねなく発言し、自分らしくいられる組織文化をつくる必要があります。
「一貫性のある目標設定」の実現
魅力的な会社をつくるための組織的な土台の2番目は、「一貫性のある目標設定」です。
要するに、会社全体の目標と組織の目標と個人の目標のベクトルを一致させる目標設定をすることです。
ではどのように会社全体で一貫性のある目標設定をしていくかというと、まず企業理念を明確にするわけですが、次にその企業理念を実現するためには数年後または10年後などにどんな会社になりたいか、どんな会社でありたいかを具体的に描く中期ビジョン(数年後~10年後)を設定します。
中期ビジョンは、企業理念を実現するための中間点で、企業理念よりも具体性の高い中期的な目標です。
中期ビジョンが描けたら、次に中期ビジョンを実現するための経営戦略を立案します。中期ビジョンを実現するための基本的な方策ですね。
そして、経営戦略を実現するための今年1年間の全社目標を設定します。
全社目標が設定できたら、今度は全社目標を実現するための部門目標を設定します。
部門目標が設定できたら、部門目標を達成するためのチーム目標を設定します。
そして、チーム目標が設定できたら、チーム目標を達成するためのメンバーの目標、個人目標を設定します。
このように各段階の目標が設定できれば、個人目標が達成できれば、チーム目標が達成でき、チーム目標が達成できたら、部門目標が達成でき、部門目標が達成できたら全社目標が達成でき、全社目標が達成できたら経営戦略が達成でき、経営戦略が達成できたら、中期ビジョンが実現し、会社が究極的に目指している企業理念の実現に近づくということが明らかになります。
そうすると、社員がそれぞれの個人目標を達成すると最終的には会社全体で世の中に役に立つことができるようになることがわかり、目の前の自分の目標は必ずしも楽しいものではなかったとしても、その目標に取り組むことに意義を感じ、成果が出ればやりがいも感じることができるようになるはずです。
会社全体で一貫性のある目標設定をして、社員一人ひとりが企業理念の実現につながる個人目標に真摯に取り組み、やりがいを感じられる状態をつくることは、魅力ある会社になるための最も重要なポイントになります。
「社員の自律を促すマネジメント」の実現
人は、安心できる組織文化・人間関係、企業理念の実現につながる個人目標が設定できたとしても、目標の実現に対して上司からこまごまと指示されて実行する場合には、やりがいや充実感を感じることができません。
なぜなら、上司の操り人形で自分がない状態だからです。
社員が仕事にやりがいや充実感を感じられるようにするためには、すべてではなくとも自分の仕事の多くの部分を自分で考え、行動し、結果を次に活かすという一連の行為を本人に任せる必要があります。
そして社員が自律的に仕事に取り組む中で、より良い成長と成功体験が積めるように、上司はメンバーを支援してあげることが必要です。
これが、社員の自律を促すマネジメントです。
このマネジメントでの上司の主な役割は、
・メンバーの目標設定の支援
・仕事で判断するのに必要な情報の提供
・仕事の目標とゴールをメンバーと合意したら、その達成の仕方はメンバーに任せる
・メンバーに目標達成に向けた行動の定期的な振り返りを促す
・メンバー本人が気づいていないことを気づかせる
・応援、励まし、感謝
などです。
徹底的に、社員の主体的な成長と成功体験につながることをサポートするのです。
このことが社員を尊重しているというメッセージになりますし、自分が主体的に行動する中で成果が生まれれば、社員はやりがいと充実感を感じることができるようになります。
まとめ
会社を、社員が定着し、長く働きたいと思うような魅力的な会社にするためには、社員が自分の仕事そのものに意義を感じ、仕事に向き合うことで高いやりがいと充実感を得られるような状態をつくることがとても重要です。
そして、社員が自分の仕事に意義を感じ、高いやりがいと充実感を感じられるようにするためには、まず事業をとおして社会貢献をするための基本的な考え方を宣言した企業理念を明確にする必要があります。
そして、全社員がその企業理念の実現に向かって気持ちよく働けるように、3つの組織的な土台を丁寧に整備していくことが重要です。
3つの組織的な土台とは
- 安心できる組織文化
- 一貫性のある目標設定
- 自律を促すマネジメント
です。
これらが、バランスよく一貫性をもって整備されていけば、社員がやりがいと充実感を感じ、長く働きたいと思う魅力的な会社になっていきます。
そして、こうした魅力的な会社をつくっていくためのベースには、やはり人を人として尊重するという温かい人間観がとても重要です。
この人を人として尊重する温かい人間観は、今後企業が永続していく上で極めて重要なテーマになります。
長寿で優良な企業は、どこもほぼ例外なく社員第一主義です。