社員を大切にするとはどういうことか?
目次
はじめに
人々から愛され永続する企業、いわゆる長寿企業のような「いい会社」の特徴について、以前もお伝えしました。
改めてその特徴をまとめてみると以下の3つになります。
- 人を人として大切にする組織文化を持っている
- より質の高い価値(製品やサービス)を提供することを追求している
- 絶えざる自己成長を謙虚に続けている
この「いい会社」は特に経営者が人を人として大切にする基本的な考え方を持っているので、お客様により質の高い価値(製品やサービス)を提供しようとするため、信頼され、製品やサービスがブランド化しますし、常にお客様や世の中の変化に合わせて、柔軟に自身を変化させています。
そしてそれを続けることによって、結果として人々から愛され、永続する企業になっていきます。
この良い循環をつくっていくために大事なことは、もうお分かりだと思いますが、人を人として大切にする、尊重するという組織文化を持っていることです。
この人を人として大切にするという基本姿勢がなければ、より質の高い価値を提供しよう、そのために自己成長を謙虚に続けていこうという地道な取り組みを継続することはできないと思います。
人々から愛され、永続する企業になるための好循環が生まれる起点が、関わるすべての人を人として大切にするという基本姿勢だと思います。
そして、人々から愛され永続する企業、いわゆる長寿企業は、社員をまず第一に大切にする傾向が強いようです。
経営者が社員を大切にすれば、社員はお客様、取引先、地域の人々などかかわる人々を大切にしようとしますし、より質の高い価値をお客様や地域に提供しようという共通の活動が全社でできるようになるからです。
このような条件を備えていれば、人々から愛され、永続する企業になる可能性が格段に高まる訳ですが、長寿企業や長期間にわたって優れた価値(製品やサービス)の提供と高い業績を実現している企業は本当に社員を第一に大切だと考えているのでしょうか。
次にそのことを実際の企業の企業理念など基本的な価値観を見ることで確認してみたいと思います。
長期間にわたって優れた価値の提供と高い業績を実現している企業
1社目は、株式会社ネッツトヨタ南国という高知県にある会社です。
全国のトヨタ系のカーディーラーの中で13期連続で顧客満足度No.1に輝いた会社で、2002年には日本経営品質賞を、2015年にはホワイト企業大賞を受賞しています。
リーマンショックの際に売り上げを大幅に落とすディーラーが多い中で、地域のお客様がネッツトヨタ南国を心配して車の買い替えを進めてくれた結果、通常の年よりも売り上げが伸びてしまったという逸話のある、地域に愛されている会社です。
この会社の企業理念は「全社員を勝利者にする」です。
通常は顧客満足度ナンバーワンなどを掲げる会社が多いと思いますが、あくまでも社員第一です。
社員が勝利者になるために、社員が満足度を高めるために、顧客満足を追求するという考え方なのです。
2社目は、伊那食品工業株式会社という寒天関連商品を製造販売している会社で、48期連続で増収増益を達成している、トヨタの幹部も視察に来るという優良企業です。
現社長の塚越英弘さんが、企業の目的は社会や人々の幸せを追求することで、もっとも重要で身近な社員の幸せを追求することであるとホームページで述べています。
そして、社員の皆さんが働く環境が快適であることや福利厚生の充実に本当に心血を注いでいます。
3社目は、最先端の研究・産業用レーザーや高額機器などを輸入・販売するレーザーの専門商社、株式会社日本レーザーです。
23年連続黒字で、10年以上離職率はほぼゼロ、第1回「日本でいちばん大切にしたい会社」の大賞である「中小企業庁官賞」を受賞しています。
日本レーザーのクレドの特徴は、会社は社員の雇用と成長の機会を守るために存在している、会社は社員を幸せにするために存在していると宣言している点です。
いずれの会社も、明確に会社は社員を幸せにするために存在していると宣言し、優れた業績も同時に実現しています。
社員を大切にする → 社員がお客様やかかわる人々を大切にする → 質の高い価値(製品やサービス)を提供する → お客様や地域に愛される → 長期間にわたって優れた業績を実現している という好循環が生まれていることがわかるのではないかと思います。
社員をどう大切にするかは企業ごとに考えて実行する必要がある
もちろん、長期的に優れた業績を実現している企業がすべて社員を大切にしているかというとそうではないでしょう。
社員を会社が利益を上げるためのリソース、道具としか見ていない企業であっても、社員を動かす強力なリーダーシップやシステムがあれば、高業績を続けることは可能ですし、実際にそういう企業は存在しています。
ただ言えることは、社員を人として大切にするという信念を持ち、そのことを肝に銘じて経営している会社は、強制や仕組みで社員を動かしている会社よりもどうも無理なく好循環を生み出し、長期間にわたって優れた業績を実現している可能性が高いということです。
顧客満足の前に社員満足があるなど一般的に言われていることにも合致しています。
社員を大切にすることが企業の発展にとって非常に重要であり、起点であると言えそうですが、では社員を大切にするとは具体的にどうしたらいいのでしょうか。
もちろん、これには一般的な正解というものはありません。
あるとすれば、それはそれぞれの会社の経営者や幹部の皆さんの人間観によるということになると思います。
ですから、ぜひ経営者の皆さんや幹部の皆さんで、「わが社では社員を大切にするとはどう考えたらいいのか、具体的に社員とどう接したらいいのか」などについて率直に話し合っていただきたいのです。
ちょっと哲学的で難しく感じるかもしれませんが、非常に重要な「問い」です。
難しいかもしれませんが、その問いに真剣に向き合うこと自体がとても重要で、そうしたことを考えようとする経営者や幹部の皆さんの人に対する誠実さが、組織に好循環を生むきっかけになると思います。
そしてそこで皆さんで話し合ったことが、それぞれの会社での正解になると思います。
とはいえ、どのような感じで話し合ったらよいのか雰囲気がわかるように、ある企業での検討の様子を少しお伝えしたいと思います。
「社員を大切にするとはどういうことか?」を考える(ある企業の事例)
この会社は弊社が2年余り、人材が集まる魅力的な会社になるための組織づくりや制度整備のお手伝いをしている、社員数30名弱の建設会社です。
今年のはじめからOKR(目標管理制度)を導入し、社長を含む7名の幹部の皆さんと目標の進捗状況確認ミーティングを毎月行っていますが、その場で進捗状況の確認とともに「社員を大切にするとはどういうことか?」という問いに向き合っていただきました。
この会社は非常に企業理念を大事にしており、「みんなシアワセ。 ~六方良し~」を10年後ビジョンに掲げ、もともと関わるすべての人に幸せになって欲しいという想いを持った会社ですが、この想いをより具体的にするために、「社員を大切にするとはどういうことか?」についてあらためて考えていただきました。
「社員を大切にするとはどういうことか?」というテーマで意見を言っていただく前に、「自分が大切にされたと感じたのはどんな時か?」について皆さんの体験をお聞きしました。
複数人からあった答えは、
- ちゃんと見てくれていると感じたとき
- 評価されたとき(昇格昇給)
- 仕事を任せてもらえたとき
などで、仕事ぶりに関心を寄せ、評価し、信頼してくれたときに大切にされていると感じたようです。
その他の答えとしては、
- 自分の存在を認められたとき
- ほめられたとき
- 感謝されたとき
- 期待されたとき
- 背中を押してくれる声掛けやサポートがあったとき
- ちゃんと叱ってくれたとき
などがありましたが、最初の複数回答も含めてこれらはほぼ「自分の存在を認められたとき」に集約できると思います。
人は、「自分の存在を認められたと感じたとき」に、大切にされたと強く感じると言えるのではないかと思います。
そして、本題の「社員を大切にするとはどういうことか?」について、皆さんから意見をうかがいました。
- 感謝を忘れない
- 欠かせない人物であることを認識させる
- 良い働く環境を整える(楽しい、ワークライフバランス、給与、メンタル、余裕時間、健康など)
- 一人の人間として尊重する
- 一人ひとりの頑張りを認めてあげる
- 個人のビジョンを確認して対応していく
とても素敵な内容だと思いませんか。
そして最後に、代表であるO社長の意見をお聞きしましたが、皆さんの意見をまとめるように、「難しいのですが、物心ともに豊かにする環境をつくる、箱をつくるということではないかと思います」と言っていただきました。
物心の「物が豊か」とは、お金、報酬のことですね。
そして、物心の「心が豊か」とは、社員が成長して、評価されて、仕事が楽しいという状態のことと言っていただきました。
この会社では、社員を大切にするとは、経済的にも精神的に豊かになるための環境を提供すること、そして精神的な豊かさを感じるようにするためには、成長を実感させ、しっかりと評価してあげて、仕事が楽しいと思うような働き方をしてもらうことだということになると思います。
次の段階として、それでは社員の皆さんに「成長」「評価」「楽しさ」を実感してもらうようになるために、経営者や幹部の皆さんがどのように社員の皆さんに接したらよいのか、具体的に考えてきてくださいと宿題を出させていただいています。
皆さんからの発想がとても楽しみです。
まとめ
人々から愛され、永続する「本当にいい会社」の特徴は、以下の3つです。
- 人を人として大切にする組織文化を持っている
- より質の高い価値(製品やサービス)を提供することを追求している
- 絶えざる自己成長を謙虚に続けている
そして、人々から愛され、永続する「本当にいい会社」になるための好循環を社内に生み出す起点が、人を人として大切にする組織文化をしっかりと持つことです。
そして人を大切にするなかでも、もっとも身近な社員を人として大切にすることが、最も重要です。
社員を大切にする → 社員がお客様やかかわるすべての人々を大切にする → 質の高い価値(製品やサービス)を提供する → お客様や地域に愛される → 長期間にわたって優れた業績を実現している という好循環が生まれやすくなります。
では、社員をどのように大切にしたらよいかということですが、これには一般的な正解はないと言えます。
それぞれの会社のそれぞれの経営者や幹部の皆さんがわが社にとって、「社員を大切にするとはどういうことか?そのために具体的にどう社員と接したらよいか」を自分事として、今置かれている状況の中で考え、最適解を生み出し、実行していくしかありませんし、そうでなければ良い結果にはつながらないでしょう。
社員を人として大切にする文化を生み出すのは社員ではなく、ほかならぬ経営者や幹部の皆さんの人間観や行動にかかっています。
まずは幹部の皆さんで、「わが社にとって社員を大切にするとはどういうことか?」という問いに向き合って、ざっくばらんに話し合うところから始めていただければと思います。