組織を活性化したいと思ったら、まず信頼関係づくりからはじめましょう!

はじめに
経営者や人事担当者、組織開発の担当者の皆さんとお話をしていると、皆さん「会社をもっと良くしたい」「活性化したい」との強い思いを持っていらっしゃいます。
そして、組織が良くなることや活性化に役立つと思われる様々なことにアンテナを張っていらっしゃいます。
組織の活性化を一言でいうと、一人ひとりが活き活きと働き、組織全体が元気な状態になるということだと思います。
組織が活性化している状態をもう少し具体的にすると
- 一人ひとりが自律的に仕事に取り組んでいる
- コミュニケーションが活発で、風通しが良い
- お互いに助け合い、協力し合っている
- 良いアイデアが次々に生まれてくる
- 仲が良く、仲間意識や一体感がある
- 業績が右肩上がりで伸びている
のような状態が生まれていることを言うと思います。
上記のような状態を生み出すために、権限委譲をする、飲み会を奨励する制度をつくる、チームビルディングの研修を行う、新規事業提案制度でアイデアを募る、委員会活動やクラブ活動を仕掛けるなど様々なことが行われてきたと思います。
上記のほかにも、評価制度を変えたり、福利厚生を充実させたりする場合もあるでしょう。
ただそうした個別の施策を一生懸命実施しても、なかなか組織が良くならない、活性化しているとは思えないということがよくあると思います。
組織づくりの大きな目的は、最終的には社員一人ひとりが会社の共通の目標(ビジョン)を意識しながら、自分で発想し、決断し、行動して、結果を次に活かし、世の中から求められる価値を生み出していけるようになることだと思います。
ではそうした組織をつくるためには、何にフォーカスしたら良いのでしょうか。
様々な試みが機能するような、「組織の土台」をまずつくることが重要なカギになります。
組織の土台の重要性
組織には2つの側面があります。
一つは戦略を描き、目標を立て、世の中が求めている価値や業績をつくり出していく機能的な側面と、もう一つは組織のメンバー同士がお互いを思いやり、一体感を持ち、助けたり、支え合ったりするような家族的あるいは共同体的な信頼関係の側面です。
ハード的な側面とソフト的な側面、仕事軸と人間軸と言ってもいいかもしれません。
事業や仕事を進める場合、とかく機能的な側面だけにフォーカスして、信頼関係の側面を気にしないケースがとても多いのではないかと思います。
「思いやりや一体感なんて仕事に持ち込むなよ、とにかくやれよ!」ということがビジネスの常識で、人間性や感情などは仕事に必要ないものと知らず知らずのうちに思ってしまっているケースも多いと思います。
しかし、組織にとって、または組織づくりをする際、機能的な側面と信頼関係の側面は車の両輪で、お互いに密接に影響し合っています。
そして、どちらかというと信頼関係の側面があってはじめて機能的な側面がうまく回っていく、好循環が生まれると考えられます。
ですから、組織を良くしたい、活性化したいと思った時には、組織をうまく機能させるための組織の土台=信頼関係をまずつくることを意識することがとても重要です。
組織の土台=信頼関係をどのようにつくっていったらよいか
それでは、組織の土台である信頼関係を築いていくにはどうしたら良いのでしょうか?
ことはそんなに簡単ではありませんよね。
簡単に信頼関係が築けるのであれば、苦労はいりません。
信頼関係を築いていくためには、信頼関係が生まれるメカニズムをまず理解する必要があります。
信頼関係づくりは、自分たちの組織をこんな状態にしたいなあという組織の共通の目標(ビジョン)をまず描くことからはじまります。
組織のメンバーが本音で話し、自分たちが本当に目指したい組織の状態を明確にし、言葉にします。
共通の目標(ビジョン)が言語化されると、メンバー全員の共通の目標(ビジョン)の理解が深まり、共有化されやすくなります。
共通の目標(ビジョン)が深く共有されると、一体感や仲間意識が強まってきます。
そして、一体感や仲間意識が強まるとお互いをよく知ろうとしたり、あいさつを交わしたり、声掛けしたり、お互いの存在を認め、大切にしようとするコミュニケーションが高まっていきます。
お互いに関心が向くようになるので、周りをがっかりさせるような行動ができなくなり、共通の目標(ビジョン)を実現することにつながる責任のある行動を皆が取るようになります。
そして、メンバーが言っていることとやっていることが一致する責任ある行動を取るようになり、約束やルールも守るようになると、お互いに信頼できると思うことができ、信頼関係が深まります。
そして、信頼関係が深まると、最初に戻ってより本音で対話できるようになるので、共通の目標(ビジョン)が更に明確になり、共有され、お互いを大切にするようになるという、好循環が生まれていくことになります。
これを図示すると
①本音の対話
↓
②共通の目標(ビジョン)の明確化・言語化
↓
③共通の目標(ビジョン)の理解・共有
↓
④一体感・仲間意識
↓
⑤お互いを知り、大切にしようとするコミュニケーション
↓
➅責任ある行動(共通の目標と一致する行動、言っていることとやってることが一致)
↓
⑦信頼関係
↓
①に戻りさらに強化
一つの要素が強まると次の要素が強まる、逆に一つの要素が弱まると次の要素が弱まるというループを描く構造です。
組織の土台である信頼関係を高めるためには、通常は①の本音の対話をなるべく多くのメンバーで行って、共通の目標(ビジョン)を明確にし、共有することから始めればよい訳です。
ただ、①の本音で対話するということはそんなに簡単にできることではありません。それこそ矛盾するのですが、信頼関係がある程度成立している組織でないと、いきなり本音で話そうとしてもうまくいきません。
ですから、本音で対話することができる信頼関係がまだ無い組織では、できるだけ建て前ではない対話を重ね、まず②の共通の目標(ビジョン)を何とか言語化し、そしてその③の共通の目標(ビジョン)の共有を繰り返します。
そうすると④の一体感・仲間意識が少しずつ高まるので、⑤のお互いを大切にしようとするコミュニケーションと➅のお互いが責任ある行動を取ることが少しずつ強まっていきます。
⑤のお互いを大切にするコミュニケーションとは、仲間をかけがえのない存在と認め、大切にしていることを知らせる言動です。
決して難しい内容ではなく、あいさつや暖かい声掛け、相手に関心を持ちありのままに理解しようとすること、相手の意見をよく聞き活かそうとするなどの向き合い方です。
また、➅の責任ある行動とは、共通の目標(ビジョン)と合っている行動や自分が決めたことと合っている行動を取ること、組織内での約束やルールを守ることなど、要するに言っていることとやっていることが一致している行動をとろうとすることです。
この⑤のお互いを大切にしようとするコミュニケーションと⑥の責任ある行動がしっかりできるようになると、組織の土台である信頼関係が徐々に築かれていきます。
では、この信頼関係を築くプロセスを具体的な事例で見ていきましょう。
共通の目標(ビジョン)を設定し、信頼関係をつくっていく事例
ホールや会議室の音響・映像の機器や監視カメラの設置などを行う、社員数35名の会社があります。
現場で設置作業を行う建設会社ですから、人材採用にはけっこう苦労しています。
その社長さんから、部長に経営感覚を身に付けてもらい、新たに採用した人材を育て、大事にする意識を持ってもらいたいという相談がありました。
4つの部があり、そのうちの2人の部長さんにインタビューさせていただきましたが、決して人材を大事にしていないわけではありませんでした。
ただ、部長さん同士の連携があまり良くないという印象を受けました。
そして、社長さんと部長さんたちの関係も必ずしも緊密とは言えませんでした。
そこで、社長さんと4名の部長さんの5名を対象とした、月1回4時間ずつの幹部研修を実施することにしました。
初回に、良い循環が生まれ、持続的に業績が高まる組織とはどんな組織で、その組織の中でリーダーはどんな役割を果たさなければならないかを考えてもらいました。
そして、リーダーの役割とは、「メンバーを最大限に活かし、メンバー同士が気持ちよく協力し合えるチームをつくり、会社の目的を達成すること」であることを理解してもらいました。
そのためには、ここにいる社長を含む幹部の皆さんがこの幹部研修の場で率直に話し、「1つのチーム」になることがまず必要であることを伝えました。
1か月後の2回目の幹部研修で、目的を軸とした目標管理制度であるOKRの仕組みを説明し、会社の現状を把握するためにSWOT分析をやってもらい、そのSWOT分析をもとに、5年後に会社をどんな組織にしたいか、共通の目標(ビジョン)を描いてもらいました。
5年後の共通の目標(定性ビジョン)は、
・関東圏において業界No.1の施工実績をつくり、一目置かれる存在になる
と決まりました。
ビジョン設定の基準は、このビジョンを見た社員がわくわくすることです。
施工実績で、関東でNo.1になるというビジョンを聞いたとき、私はわくわくしました。とても野心的なビジョンだなと思いました。
そして、この5年後のありたい姿、共通の目標(ビジョン)を実現するために、今年は何をするのかOKR(目的と重要な結果指標)を全社、各部でベクトルを合わせる形で決めてもらいました。
その過程で、部長さんたちとは別の中堅社員をメンバーとする「施工実績No.1プロジェクト」を立ち上げる、現在の施工実績を見える化する、機器メーカーの営業所に定期的に訪問するなどのアイデアが出てきました。
そして、その設定したOKRの進捗状況を1か月ごとに確認することにし、OKRに対してどういう行動ができて、どういう行動ができなかったか、重要なことや課題は何か、その気づきを踏まえて次の一カ月はどんな活動を行うかを、社長以下5名のメンバーで、ある意味愚直に情報を共有しながら、意見も言い合いながら確認していくということを繰り返しました。
必ずしも毎回うまく振り返りができたわけではありませんでしたが、続けているうちに、社長と部長が集まる定例の会議をこの研修のようにディスカッションをして決める会議にしたい、このOKRの取り組みに今はまだ関わっていない他のメンバーも巻き込みたいなどの想いが少しずつ生まれてきています。
共通の目標(ビジョン)を決めて、OKRを設定し、その進捗をお互いに確認しながら、次の活動を決めて、実施するというPDCAサイクルを回すという取り組みをチームで重ねることで、まだまだ道半ばですが、かなり組織の様子が変わってきています。
まとめ
「会社をもっと良くしたい」「活性化したい」と思ったら、まず具体的な施策を実施する前に、組織の土台である信頼関係を強める取り組みをすることをお勧めします。
もちろん信頼関係がしっかり生まれている組織では、いきなり具体的な取り組みを行ってもよい訳ですが、信頼関係が弱い組織がとても多いのが実状です。
様々な具体的な取り組みがうまく効果を生み出すためには、組織の土台である信頼関係を強めることが重要です。
そして、その信頼関係を強めるためには、自分たちが望む組織の理想的な姿(共通のビジョン)を描き、それをしっかり共有します。
そうすると、一体感や仲間意識が芽生えるので、お互いを大切にしようとするコミュニケーションを取り、お互いに責任ある行動を取るということを積み重ねていく必要があります。
少し回り道になりますが、信頼関係を地道に築くことが、組織に好循環が生まれ、活性化していく土台になります。
ぜひ、地道に取り組んでいただければと思います。
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