中堅・中小企業が組織力を高めるための戦略とは?
今多くの企業が、そして多くの経営者の方が、「困難な状況を突破できる力が欲しいなあ」と思っているのではないかと思います。
支援させていただいている企業経営者の方に「会社がどんな状態になるとうれしいですか?」と問いかけると、「一つの方向を向いて、協力し合える組織をつくりたい!」とおっしゃる方がとても多いです。
厳しい状況下では個人個人の力だけではなく、組織としての力(組織力)をより強めたいということだと思いますが、今回はこの今企業に一番求められている「組織力」の高め方について、特に日本の企業の約99%を占める中堅・中小企業の組織力を高めるための戦略について考えていきたいと思います。
組織力とは何か?
それではまず、組織力とは何かということから始めたいと思います。。
大辞泉によると、組織力とは
1.組織がまとまって動くときに発揮される実行力、また他に与える強い影響力。組織の持つ力。
2.ある個人や団体が持つ、目標の下に人々を集めて動かす能力。物事を組織する能力。
とされています。
簡単に言えば、目的を達成するための「集団としての能力」ということになります。
この集団としての能力=組織力を分解してみると、戦略や技術力の高さなども重要な要素ですが、結局はそれらを使い実行する、組織に所属する「一人ひとりの能力の高さ」と「その一人ひとりの連携の度合い」の掛け算になると思います。
組織力 = 一人ひとりの能力の高さ × チームワークの度合い
このことから考えると、組織力を高めるためには、一人ひとりの能力を高めるか、チームワークの度合いを高めるか、あるいはその両方と言うことになります。
それでは、中堅・中小企業は、組織力を高めようとした場合にどのような考え方・戦略を取ったらよいのかを考えていきたいのですが、まずは、大企業や一流企業が自らの組織力を高めるためにどのような戦略をとっているのかから見ていきたいと思います。
大企業が組織力を高めるための戦略
大企業あるいは一流企業が組織力(一人ひとりの能力の高さ×チームワークの度合い)を高めるためにまず取る戦略は、なるべく能力の高い人材を採用し、囲い込むということです。
能力の高い人材とは、一定の専門的な知識や社会的な常識・経験を備え、自分で学習して結果に結び付けていくことができる人材です。
自分で考え、決めて、行動し、結果を次に活かせる「自律型人材」と言ってもよいかもしれません。
大企業や一流企業では、スケールの大きな仕事ができますし、教育制度も充実し、報酬も高く、労務環境や福利厚生も整っているので、上記の能力の高い人材を惹きつけることができます。
したがって、大企業や一流企業が組織力を高める戦略は、
①能力の高い人材を獲得する
②その人材の能力を教育や評価制度などで高める
③目的の共有やイベントの実施などを通じてチームワークを高めていく
というものになると思います。
ただこの戦略で課題なのは、企業の規模が大きいだけに、組織が分断されて、官僚的になりやすく、相当な覚悟と努力が無いとセクショナリズムに陥ってしまうなど、会社全体としてのチームワークを高めることが難しいということです。
一方で、能力の高い人材を集め、教育することはできるので、①と②は強化できるため、全体的に組織力をある程度のレベルまで引き上げることができます。
一人ひとりの能力が高く、チームワークのレベルも高いという超一流の会社やベンチャー企業のトータルの組織力を80~100点だとすると、大企業や一流企業の組織力はチームワークの度合いがやや低いため、50~80点ぐらいというところではないでしょうか。
大企業や一流企業は、チームワークのレベルが多少低くても、人材の能力の高さで事業を展開して、ある程度の業績に繋げることができるので、メンバーの関係性やチームワークの強化はどうしても手間と時間がかかるので後回しになってしまい、あと一歩超一流の企業に近づけないという状況にあると思います。
中堅・中小企業が組織力を高めるための戦略
それでは、中堅・中小企業が組織力を高めるためにはどのような戦略を取ったらよいのでしょうか。
中堅・中小企業も組織力を高めていく場合にとる方策は大企業・一流企業と変わらず、
①能力の高い人材を獲得する
②その人材の能力を教育や評価制度などで高める
③目的の共有やイベントの実施などを通じてチームワークを高めていく
の3つであることに変わりはありません。
ただ違うのは、まず何に一番力点を置いて組織力を高めていったらよいかという順番の問題です。
大企業・一流企業の場合は、まず①能力の高い人材を採るということが起点でした。
とかく中堅・中小企業で成長している会社は、大企業・一流企業と同じように能力の高い人材を採ろうとしますが、残念ながらそれはあまり良い戦略とは言えません。
中堅・中小企業は大企業がやらない手間のかかる領域で人手を使って事業を展開することが多いわけですから、大企業よりも利益水準が低い傾向にあり、したがって給与水準も見劣りがして、職務環境や福利厚生も圧倒的に大企業と差があります。
このような状態で大企業や一流企業と同じような学歴やスキルの高い人材を採ろうとしても、採用できないのがある意味当り前です。
ですから、中堅・中小企業が組織力を高めるためにまずフォーカスすべきなのは、今いるメンバーのチームワークの度合いを高めることです。
ダニエル・キムの有名な「組織の成功循環モデル」でも、“関係の質”をまず高めることが重要だとしています。
チームワークを高めることに取り組むと、それだけでも組織力を高めることにつながりますが、副次的な効果もあります。
チームワークを高めようとすると、仲間と連携して仕事をすることになるので、仲間に良いパスを投げよう、一緒のスピードで走ろうとするのでだんだんと個人の能力も上がってきます。
また、チームワークが良くなると当然組織の雰囲気も良くなり、組織全体が元気になるので、そこに魅力を感じて今まで採れなかったような能力の高い人材が少しずつ採れるようになるという、好循環が生まれることになります。
ですから、中堅・中小企業は大企業に対抗して能力の高い人材を採用することにまず注力するのではなく、今いるメンバーのチームワークの度合いを高めることにフォーカスした方が、無理が無いですし、結果的に能力の高い人材も徐々に採用できるようになっていくのです。
中堅・中小企業のチームワークの高め方
それでは、チームワークの度合いを高めるためのポイントは何でしょうか?
大きなポイントは2つです。
第一に、経営トップ(社長)やマネジャーが社員やメンバーに対する見方と接し方を見直すことです。
第二に、経営トップ(社長)やマネジャーの皆さんが、自社の「組織のありたい姿」を明確にし、その「組織のありたい姿」の実現のために、各々が目標と行動計画を立て、マネジメントチームとして学習しながら実行していくことです。
まず第一の「経営トップ(社長)やマネジャーが社員やメンバーに対する見方と接し方を見直す」ということがどういうことか説明していきたいと思います。
チームワークや社員同士の関係性があまり良くない企業に共通している経営トップ(社長)やマネジャーの特徴があります。
①社員をできるできない、良し悪しで判断し、社員の悪口を言ったり、批判したりする
②社員の話をほとんど聞かず、一人で話していることが多い
③社員の意見や提案をほとんど受け入れない、または否定する、ケチをつける
④社員よりも売り上げや利益を優先していることが明らかにわかる
⑤社員を取り換えのきく道具だと思っている
簡単にいうと、社員やメンバーの存在を認めず、無意識のうちに「あなたたちはダメで、存在する価値が無い」というメッセージを出し続けているということです。
知らず知らずのうちに、社員を業績を上げるための機能あるいは道具のように扱い、人間として大切にしなくなっているということです。
社員やメンバーは、自分という存在を受け入れ、認め、大切にしてくれる経営トップ(社長)やマネジャーを信頼し、尊敬します。
社員やメンバーは、自分という存在を受け入れ、認め、大切にしてくれる経営トップ(社長)やマネジャーの下では、安心して働くことができるので、自分の仕事に集中することができますし、他の社員やメンバーと協力する精神的な余裕が出てきます。
ですから、もし組織のチームワークの度合いを高めたいと思ったら、経営トップ(社長)やマネジャーの皆さんは、社員やメンバーが共通の目的を達成するためのかけがえのない存在であることを認識し、社員やメンバーを大切なパートナーだと思っていることがわかるような言葉がけや接し方を常に心がける必要があります。
この経営トップ(社長)やマネジャーが社員やメンバーの存在を認め、普段から大切にするということが、組織のチームワークの度合いを高める上での、土台になります。
社内のチームワークを高めるための第二の方法は、経営トップ(社長)とマネジャーが、「組織のありたい姿」を描き、その実現のために各々が目標を設定し、協力しながら実行していくことです。
要するに、経営トップ(社長)を含む経営幹部の皆さんがチームとなって経営にあたり、チームワークのお手本を見せてあげるということです。
経営幹部がチームワークを実現できないのに、会社全体でチームワークを高めることはできません。
たとえば、「社員一人ひとりが自己実現を目指し、いざとなったらお互いに支え合える家族のような会社」という「組織のありたい姿」を描いたとします。
その「組織のありたい姿」を実現するために、経営トップ(社長)はどんな目標を設定し、どう行動するのか、部長さんや課長さんはそれぞれの役割の中でどんな目標を設定し、どう行動するのかをお互いにアドバイスしながら決め、実行します。
一人ひとりが目標の達成のために行動し、振り返るだけではなく、マネジメントチームとして各々の目標達成進捗状況を共有し、振り返り、課題や重要な点を考え、その次の行動を設定するという、組織学習を行います。
まず、経営トップ(社長)とマネジャーが、腑に落ちる「組織のありたい姿」をチームで設定し、そのための個々の目標と行動計画をチームで共有しながら決め、実行状況をチームで振り返り、次への活動をチームで検討し、チームで共通の何かに取り組む達成感と楽しさを味わうということです。
経営幹部の皆さんがチームワークの度合いを高めるトレーニングをするとともに、そのトレーニングの体験をもとに、自分のチームのチームワークの度合いを高める取り組みをしていくのです。
チームワークが上から下に広がっていくようなイメージです。
特に中堅・中小企業は大企業に比べて規模が小さいので、チームワークの度合いを高める取り組みはやりやすいですし、チームワークを磨くことが大企業の組織力を凌駕できる唯一の戦略と言ってもよいでしょう。
まとめ
戦国時代の合戦を考えた場合、強者がたくさんいるが普段あまりコミュニケーションを取らず一緒の訓練もあまりしていない軍団と強者の数は少ないけれども普段からコミュニケーションをよく取り、実戦を想定した訓練を重ねている軍団が激突した時、兵の数がほぼ変わらなければどちらが相手を打ち破れるでしょうか。
やはり組織力の高い後者が勝つように思いますが、あなたはどう思うでしょうか?
中堅・中小企業は強者をたくさん雇うことが難しいので、組織力を上げようと思ったら、今いるメンバーのチームワークの度合いを高めることにフォーカスするしかありません。
そして、チームワークの度合いを高めるための土台は、社長さんやマネジャーなどの経営幹部の皆さんが、メンバーの皆さんを共通の目的を達成するためのかけがえのない存在として、人間として接することです。
そして、経営幹部の皆さんがまず、自分たちはどんな組織をつくりたいのか「組織のありたい姿」を描き、その実現のためにマネジメントチームとして、各々が目標と行動計画を設定し、自分事として実行し、チームで達成状況を振り返り、次の行動を決めていくというチームワークの度合いを高めていく必要があります。
上からチームワークを強化し、下からの信頼を得ながら、チームワークの度合いを全体的に高めていくことが重要です。
チームワークづくりは、お互いを重要な存在、人間として認めて向き合っていく地道な作業ですが、これを続けていけば必ず効果を得られます。
ぜひそれを楽しみに、取り組んでいただければと思います。