指示待ち組織からの卒業!理想を追いかけ、社員が自走する目標管理のしくみ:OKR
目次
はじめに ― 今企業がかかえる主な課題
あなたの会社では、社員の皆さんが言われたことはまじめに一所懸命にやるが、それ以上のことはしない、そんな状態になっていないでしょうか。
弊社は、毎年約100社の企業を訪問し、経営課題をお聞きしています。
最近よく聞くようになったのは、社員のエンゲージメントを高めたいという要望です。
「会社を好きになって欲しい」「自分で考えて、お客様に喜んでもらえるように、もっと踏み込んだ仕事をして欲しい」「自分から積極的にスキルアップに取り組んでほしい」「社員同士もっとコミュニケーションを取って、チームワークを発揮して欲しい」などです。
これらの経営者や幹部の皆さんの想いをひとことで表現すると、「社員がもっと主体性を発揮して、協力し合いながら、会社の業績を高めて欲しい」ということになるのではないかと思います。
本記事では、Googleなどでも採用するOKRという目標管理のしくみを軸に、会社全体で理想を追いかけながら、社員も自ら考え、動き出し、業績も高まっていく組織づくりの魅力と具体的なプロセスについてお伝えします。
社員の主体性を高めることがすべての起点
社内にチームワークを生み出す、高いお客様満足度を実現する、業績を高めるなど、さまざまな効果を継続的に生み出していくためには、社員の主体性を高めることが起点になります。
社員の主体性が高まると、自分で仕事をする上での目的や課題に意識が向くようになりますし、目的や課題を自分で見つけると、「こうしたらいいんじゃないか」と創意工夫するようになるので、お客様に喜んでもらえる確率が高まり、業績がアップしていくことになります。
ただ、どうやって社員の主体性を高めたらいいのかということが最大のポイントですよね。
皆さんはどんなときに、主体性を発揮できるでしょうか。
たぶん、何か自分が本当にやりたいこと=意味のある目的があり、その実現を目指すことを周りの人が認めてくれて、さらに応援や後押しをしてくれたとき、もっともモチベーションがあがり、「よしやるぞ!」と主体的になれるのではないでしょうか。
その自分にとって意味ある目的の実現に向かっている過程で自分の成長を実感できるとさらに主体性が高まります。
つまり、人が主体的になるには、自分にとって「意味のある目的」を持つこと、周りの人びとと応援し、応援されるような「よい人間関係」を結ぶこと、「成長」している実感があることの3つが重要です。
仕事や会社をとおして自分がやりたいことも追求でき、上司や同僚もそれを認めてくれて、その過程で成長を実感できたとしたら、こんなすばらしいことはないですよね。
ですから、社員の主体性を高めるためには、社員が仕事をとおして「意味ある目的」「よい人間関係」「成長」を実感できるような組織基盤を整えることが大切で、そうした組織基盤づくりの軸になるのがOKRという目標管理のしくみだと考えています。
それではOKRとはどんなしくみなのか、次にお話したいと思います。
OKRとはどんな目標管理のしくみなのか?
OKRをひとことで言うと、「会社全体で理想の実現を目指し、その理想実現のために、全社、各部門、各個人が絞り込まれたわくわくする目標の達成に集中し、人と組織の加速度的な成果と成長を実現するしくみ」です。
その特徴は、従来のMBOのように対象期間の数値的な目標の達成だけを目指すのではなく、自分たちにとってもっとも実現したい理想的な状態は何かを考えて目標に設定するので、理想的な状態の実現を追いかけるしくみです。
人は一般的に、数字を実現することよりも、理想を実現することによりわくわくや意味を感じます。
どうも人間の脳はそうなっているようなのですね(『モチベーション脳』参照)。
OKRは理想を追いかけることを軸に数字の達成も同時に追いかけるので、みんながわくわくしながら、業績もあげていくことができる、とてもバランスの取れたすぐれた目標管理の仕組みだと思います。
OKRは、定性的な理想の実現を目指す1つの目的(O:Objective)とその目的を達成できたかどうかを測るための2~5つ程度の定量的な重要な結果指標(KR:Key Results)で構成されるので、「OKR」と呼ばれています。
上記を踏まえて、もし大谷選手がある年のOKRを設定したとしたら、下記のような感じになるのではないでしょうか。
1.O(目的)
メジャーで、誰もやったことのない二刀流で成功する
2.KR(重要な結果指標)
- 本塁打70本
- 打率5割
- 投手として20勝
- チームのワールドシリーズ優勝
Oで自分の夢を追いかけ、それが実現できたかどうかを、重要な結果指標で判断し、次につなげていくわけです。
少しイメージすることができたでしょうか?
OKRから生まれるさまざまな効果
前項で説明したOKRですが、導入して運用が軌道に乗ると、本当に様々な効果が生まれます。
その効果は無限と言ってもよいくらいなのですが、主な効果をあげてみましょう。
OKRは企業理念、中期ビジョン、経営戦略の実現を意識しながら運用するため、社員や幹部の皆さんへの経営方針の自然な浸透を図ることができます。
そして、マネジャーはOKRを通じて、自部門の目標を設定したり、その達成に部下を巻き込んだり、部下の指導をしたりしますので、マネジャーのリーダーシップ、マネジメント力、育成力を高めることができます。
社員は、会社全体が目指していること、自分が目指していることを繰り返し示され、その達成に向けての発想や行動を求められるので、自分の役割、課題、やるべきことを認識し、「目的意識」が高まります。
弊社が支援しているある会社では、毎月1回各部署のリーダーとメンバー全員が出席して、一か月OKRに取り組んだ進捗状況を経営幹部に対して報告し、対話し、その内容を踏まえて経営幹部は承認と賞賛を意識的に行うということを実施しています。
そうした中で、ある部署の事務職の女性が、「自分の部署のOKRの達成に向けて、他のメンバーと一緒に改善を考え実行していくことはとても楽しい!」と言ってくれました。
社員の「目的意識」が高まった一端を見ることができると思います。
上記とも関係しますが、社員は共通の目的や戦略を理解するようになるので、自ら判断し、行動し、仲間と協力し合う主体性や自律性を発揮できるようになります。
また、OKRは定期的なミーティングで、自分たちは何を目指しているのか、それに対してどんな行動をし、どんな成果があったのかなかったのか、自分たちが今置かれている状況の中での重要課題は何かを確認し、次にどんなアクションを取るのかを決めて実行していくので、PDCAサイクルが回るようになるため、着実に成果が生まれ、成長できるようになります。
上記で上げたことを総合すると、OKRの導入・運用 → 社員の主体性・自律性のアップ → 組織の創造性・生産性のアップ → お客様の満足度のアップ → 業績のアップ → 社員のやりがい・働く誇りの高まり → 人材の定着率・応募率のアップ → 会社の持続的な成長・発展 という統合的な好循環が生まれます。
いかがでしょう。
とても可能性を秘めたしくみだと思いませんか?
OKRを活かした組織基盤づくりの具体的なプロセス
前項でOKRの数々の効果を見ていただきましたが、どんな制度やしくみもそうですが、導入しただけでそうした効果が生まれるわけではありません。
やはりその制度やしくみを活かして効果を生み出すためには、関連する組織基盤づくりも含めた運用をしっかり行うことがとても重要です。
OKRを活かして社員の主体性を引き出すには、「意味ある目的」「よい人間関係」「成長」を社員が実感できるようにすることがポイントだとお伝えしました。
したがって、OKRという仕組みを軸に、この「意味ある目的」「よい人間関係」「成長」を社員が実感できる組織基盤づくりに順番に取り組んでいくことが重要です。
そのプロセスが下記の4つのプロセスです。
- 理想を追いかける中長期の経営方針の明確化
- 中期ビジョン・経営戦略を実現するOKRの導入・運用
- 心理的安全性の高い組織づくり
- 成長を促すマネジメントの実現
それぞれの内容を見ていきましょう。
理想を追いかける中長期の経営方針の明確化
社員の主体性を引き出すためには、まず社員に「意味ある目的」を実感させる必要がありますが、そのためには、まず会社が何を目指しているのか、どのような理想の実現を追いかけているのか、その会社の目的・方針を明確にする必要があります。
その会社のもっとも長期的で究極に目指している目的が企業理念(ミッション・ビジョン・バリュー)です。
多くの企業では企業理念を策定していると思いますが、社員が「意味のある目的」と思える内容になっているかチェックしましょう。
理想を追いかけ社会に貢献する「意味ある目的」になっていればそのまま活かしていけばいいのですが、そうでない場合は再言語化することを検討してください。
そして、その企業理念に基づいて、3~5年後の達成を目指す「ありたい理想の会社像(中期ビジョン)」を設定することがとても重要です。
これは3~5年後に「どんな価値提供ができるどんな会社になりたいか?」を表現したビジョンです。
この中期ビジョンが多くの社員に響き、ワクワクを感じさせるものになると、社員の目的意識に火をつけることができます。
そして、この中期ビジョンが適切に言語化できれば、経営戦略は比較的スムーズに立案することができます。
会社が、社員がそれを自分も実現したい、実現できそうだと思えるような「企業理念」「中期ビジョン」「経営戦略」を示すことが、社員の主体性を高める土台になります。
中期ビジョン・経営戦略を実現するOKRの導入・運用
そして、中期ビジョン、経営戦略を実現するためのしくみであるOKRを導入し、運用することで、社員の主体性をさらに高めることができます。
中期ビジョン・経営戦略を実現するために、3か月または1年を単位とする、理想を追いかける全社OKR、部門OKR、個人OKRを設定します。
その設定に当たっては、会社全体が目指している方向性をよく理解した上で、自分の部署の役割、重要課題、そしてその重要課題を解決するために自分たちがやるべきことをよく検討した上でOKRにまとめます。
そうした自分たちの役割や重要課題を検討する中で、社員の主体性や責任意識が高まっていきます。
OKRが設定できたら、部署ごと、チームごとにOKRの進捗状況を確認するミーティングを1週間ごと、または1月ごとなどその企業の実情に合わせて定期的に実施し、PDCAサイクルを回します。
そうすると、はじめは小さなことかもしれませんが、着実に成果が生まれるようになるので、それをとらえて部署やチームに勢いや一体感を醸成していくことを心がけてください。
そして、期末にはOKRの達成状況をメンバー全員とレビューして、次期の理想を追いかけるOKRの設定を行います。
心理的安全性の高い組織づくり
人は不安な状態の中では、なかなか主体的、積極的を発揮することができません。
社員にのびのびと主体的に働いてもらうためには、心理的安全性の高い組織をつくることがとても重要です。
心理的安全性の高い組織とは、ほとんどのメンバーが気後れすることなく、自由に自分の意見を発言できる安心な場です。
多少突飛だったり、反対意見を言ったとしても、受け入れてくれる、尊重してくれると多くのメンバーが思える組織の状態です。
弊社が支援しているある会社では、2週間に1回のOKR進捗状況確認ミーティングを行っているのですが、回を重ねるにしたがって参加する幹部の皆さんから徐々に率直な意見が出るようになり、現場のサービスレベルを上げるための良いアイデアが出され、制度化して、組織の活性化に効果をあげています。
この心理的安全性の高い組織をつくるには、上司と部下、同僚同士の信頼がベースになるので、どうしたら人と信頼関係を結ぶことができるのか、その基本的な向き合い方を学ぶ研修などを実施することも有効です。
また、率直に発言していいんだよという会社からのメッセージを伝える意味でも、改善提案制度などを導入するケースもあります。
また、定期的に懇親会や楽しいイベントなど、仕事以外でコミュニケーションを深める場を設定することも重要です。
成長を促すマネジメントの実現
社員に主体性を発揮してもらうためには、新しいことに挑戦するある程度の自信(自己効力感)を持たせることが必要です。
そして、社員に自信を持たせるためには、仕事を任せられて試行錯誤をする中で自分は成長しているという実感を持たせることがとても重要です。
したがって、社員に成長や自信を持たせ主体的になってもらうためには、マネジャーがメンバーによい試行錯誤ができる仕事のさせ方、マネジメントができるようになることが重要です。
人はある課題に対して、こうしたらいいんじゃないかと自分で発想し、やってみて、その結果に基づいて次はこうしたらいいんじゃないかという試行錯誤を重ねることで成長していきます。
ですから、社員の成長を促すためには、自分で考えさせて、やらせることがとても重要です。
そのために、マネジャーは下記のことができるようになることがポイントです。
- メンバーが仕事や会社をとおして何を実現したいのか、メンバー個人のビジョンを把握し、後押しする
- 判断に必要な経営情報を提供する
- 一つひとつの仕事の目的とゴールを共有したら、その達成の仕方はメンバーの試行錯誤に任せる
- ただまかせっきりはダメなので、ときどき1on1などでメンバーの現状を把握し、問題があれば質問によって気づきを促し、必要な場合は本人の主体性を損なわない形でフィードバックやアドバイスを行う
ただ、このマネジメントを実現するのはやや難易度が高いので、1、2、3の組織基盤づくりがある程度しっかりできてから取り組んでもよいと思います。
まとめ
今企業がかかえている主な課題をひとことで表すと、「社員がもっと主体性を高めて、チームワークを発揮し、会社の業績を高めて欲しい」ということではないかと思います。
社員を主体的にすることは、経営の永遠のテーマと言ってもよいのですが、社員の主体性を高めるキモは社員に「意味ある目的」「よい人間関係」「成長」を実感させることであり、この3つを社員に実感させるのに今考えられるもっとも効果的なしくみがOKRではないかと思います。
OKRは、理想の実現を目指す1つの目的(O)とその目的の実現のために達成したい定量的な重要な結果指標(KR)2~5つで構成される目標であるため、社員にわくわくする「意味ある目的」を持たせることができますし、OKRの運用をとおしてコミュニケーションが促進され、「よい人間関係」を生み出すことができますし、OKRはPDCAサイクルを回し、よい試行錯誤を意図的に行うことになるので、「成長」を実感できる機会がたくさんあります。
OKRは上記以外にも数々の効果を生み出すことができますが、OKRを導入するだけでは効果は限定的で、OKRを軸とした、下記のような組織基盤づくりに順番にかつ丁寧に取り組むことが大切です。
- 理想を追いかける中長期の経営方針の明確化
- 中期ビジョン・経営戦略を実現するOKRの導入・運用
- 心理的安全性の高い組織づくり
- 成長を促すマネジメントの実現
4はちょっと難易度が高いのですが、1~3に順番に取り組むだけでも本当に素晴らしい効果が生まれ、人材が魅力を感じて集まり、活躍し、会社が無理なく持続的に成長・発展していくようなすばらしい好循環が生まれます。
OKRを軸に、社員の主体性を高めて、好循環を社内に生み出すためにも、まずは経営者も社員もわくわくする「中期ビジョン」の設定からはじめませんか?
11/27(木)14:00から、OKRの魅力とOKRを軸とした組織k版づくりのプロセスについてセミナーを行います。
ぜひ、ご参加いただければと思います。お申し込みは下記リンクからお願いいたします。