「つくるひとをつくる」を理念に、人に困らない経営を実現する三和建設 ~ 社員の幸福をど真ん中に、好循環を生み出す「ホンモノの理念経営」事例 ~

目次
はじめに ― 社員の幸福を「経営のど真ん中」に置く勇気
「社員を大切にしたい」と思いながらも、現実には業績や人材不足に追われ、社員の幸福を後回しにしてしまう——
そんな経営者は少なくありません。
しかし、“社員の幸福”を本気で経営のど真ん中に据え、持続的な成長を実現している企業があります。
それが、大阪の株式会社三和建設です。
「社員を大切にすれば業績も上がる」とよく言われますが、それは単なる理想論ではなく、理念と実践の一貫性によって現実の成果を生み出せるものだと三和建設は教えてくれます。
本記事では、「ホンモノの理念経営」の実践している企業としての三和建設を取り上げ、社員の幸福を軸に“好循環”を生み出している経営の本質を探っていきます。
理念の再定義から始まった再生 ― 「つくるひとをつくる」
株式会社三和建設は、1954年創業で78年の歴史を持ち、従業員数約200名の中堅ゼネコンです。
社長の森本尚孝さんは大手ゼネコン勤務を経て、2001年に三和建設に入社し、2008年に4代目の社長に就任しました。
森本社長が社長に就任したときは、会社は10億円以上の債務超過の状態で、リストラによる社員のモチベーションの低下にも苦しんでいました。
森本社長が社長就任当時まず取り組んだのは、財務状況の改善です。
思い切った事業の選択と集中による地道な取り組みが実を結び、2013年頃には資金繰りを安定させることができ、ようやく「会社の未来」について考える余裕が生まれました。
そしてまず取り組んだのが、新たな経営理念の策定です。
そこで生まれた経営理念が、「つくるひとをつくる」です。
建設会社として建物をつくるだけではなく、その建物をつくる「ひと」を育て、成長させることこそ自分たちの“本質的な使命”だと考えました。
「ひと」を軸においたのは、「建築や技術、価値・信頼などは、すべてひとがつくるもの」という考え方と、森本社長の入社当初に早期退職やリストラを目の当たりにした経験から「人を大事にしなければならない」という強い想いがあったからです。
ここから森本社長は「つくるひとをつくる」という経営理念を軸に、社員の成長と幸福を目的とする経営が始まります。
社員を単なる労働力とは考えず、一人ひとりの人生と成長を尊重する経営に振り切ります。
理念と実践の一貫性 ― 仕組みで文化をつくる
人は、言っていることとやっていることが一致している人や会社を信用します。
森本社長がそこにこだわったのは、社員に信頼される会社を作りたかったことと社員には誇りを持って仕事をして欲しいという強い想いがあったからです。
森本社長は、社内で実行するすべての施策を、「つくるひとをつくる」という企業理念に合わせていきます。
その取り組んだ様々な施策を具体的に見ていきましょう。
SANWAサミット
「SANWAサミット」は全社会議で、年2回開催されます。
理念や経営方針を伝える場ですが、単なる情報共有の場だけではなく、社員同士が互いの仕事や成長を認め合うセッションもあり、人が育ち合う文化づくりの場となっています。
コーポレートスタンダード
これは、経営理念やビジョン、経営戦略、さらに仕事における指針やルールなどの基本事項を一冊にまとめたもので、毎年更新しています。
社員一人ひとりが、この冊子を携行し、会社の考え方や判断基準を理解することによって、社員が自律的に考え、行動できる基盤にしています。
経営情報の月次公開
三和建設では、上層部しか知り得なかった経営情報を、月次で全社員に公開しています。
「社員に経営者のように働いてほしかったら、経営者と同じ情報を持たせることが必須」と言われますが、三和建設でも、社員が「経営者目線」で考える力を養い、会社全体を俯瞰できるリーダーに成長してもらうための重要なステップと考えています。
これは社員を信じる覚悟がないと、なかなか実行できない施策だと思いますが、そうした情報を社員に公開することによって社員は会社から信頼されていることを実感し、より責任ある判断や行動をするようになると思います。
コミュニケーション量を増やす取り組み
森本社長は、月に1回全社員に向けてメールでメッセージを配信しています。
このメールでは、森本社長の所感とその月に誕生日を迎える社員の名前を掲げて個別に感謝の言葉を伝えています。
また、三和建設には社員全員の日報をお互いに閲覧できる日報システムがあり、森本社長を含めた全社員が日々の業務を開示し、課題や悩みを共有し、自由にコメントすることができるようになっています。
これも「つくるひとをつくる」ための対話の場であり、お互いに学び合い、成長し合う文化を育むための重要な取り組みになっています。
SANWAアカデミー(社内大学)
これは、「つくるひとをつくる」を体現する最も重要な施策の1つです。
社員が自らの専門知識を活かして講師となり、「入門系、専門系、資格支援」など44講座が設けられていて、社員一人当たり年間6~24講座を受講しているそうです。
最初は消極的な社員もいたようですが、講座を受講した社員が実際の業務で成果を上げる姿を見て、徐々に参加率が高まっているとのことです。
新卒採用
三和建設の新卒採用は、若い社員の活躍を目的としていることが特徴です。
後輩が入ってこないと、若い社員はいつまでも下働きとして、活躍の場が限られてしまいます。
新卒を採用するということもまた、「つくるひとをつくる」ための重要な取り組みなのです。
そして、2015年から新卒採用を「成長型・理念共感型選考」にシフトしました。
入社後の新入社員の認識と会社の現実のギャップを減らし、定着率を高めるため、三和建設の企業理念・事業を知るための一次選考に1日、合宿型の二次選考に2日、通い方式の三次選考に3週間をかけ、最も多い学生で選考時間に140時間を費やしています。
この結果、内定辞退はほとんどないそうです。
この他にも、社員を尊重し、大切にし、成長を促す施策として、新入社員が1年間共同生活を送る「ひとづくり寮」や社長も含め社員同士ファーストネームで呼び合う習慣や改善報告制度など枚挙にいとまがありません。
「つくるひとをつくる」という経営理念を軸に、あらゆる施策に一貫性を持たせ、社員の成長といきがいを高めることに繋げています。
社員が輝けば、顧客価値も高まる
三和建設は経営理念に基づき、顧客に対する価値提供も独自性を持たせ、同業他社との差別化を図っています。
その主な内容を見ていきましょう。
「お客様に誠実でありたい」という精神は創業時からのもので、現在にも受け継がれています。
その誠実な仕事ぶりが認められ、サントリーやニチレイフーズなどの大企業との長いお付き合いが続いています。
そして、建設工事の品質を高めるためには、かかわる人(社員)の働きがいや誇りを高めることが大切だと考えています。
社員が働きがいや誇りを持って働き、成長するためには、すべての責任を負う元請で工事を請負い、設計と施工を一貫請負することにこだわっています。
これも、「つくるひとをつくる」上ではとても重要な考え方です。
そして、同業他社との差別化をはかり、自社の強みを発揮するために、3つのカテゴリーを選び、そのトップを目指しています。
1つは、食品工場を中心とした食品関連施設の分野で、ブランド名は「ファクタス」です。
2つ目は、危険物倉庫、冷蔵倉庫、自動倉庫といった特殊な用途を持つ専用倉庫の分野で、ブランド名は「リソウコ」です。
3つ目は、長期志向あるいは本物志向で、建物のスケルトン(柱・梁・床等の構造躯体)とインフィル(住戸内の内装・設備等)とを分離した独自のマンション建築である、ブランド名「エスアイ」です。
この様に分野を絞ることによって、実績や失敗による学びが組織全体で体系的に蓄積され、社員の専門性もより高まり、お客さまにも専門的で質の高い価値を提供することができるので、社員の働きがいや誇りにつながっていきます。
そして最近は、社員発案のプロジェクトが複数生まれ、事業化されるものも出てきています。
熱中症予防効果がある「塩ゼリー」、企業主導型保育園の設置、古民家再生プロジェクト、米作りなどです。
これらの取り組みは、「つくるひとをつくる」という理念をさまざまな角度から実現するもので、社員の主体性や創造性を引き出す場にもなっていて、社員の自発的な発案を促しています。
数字が語る「好循環」 ― 社員幸福が業績を押し上げる
ここまで、三和建設は「つくるひとをつくる」という経営理念にもとづいて、社員の成長と幸福を軸に社員を大切にする一貫した経営を行い、誠実に専門性の高い価値をお客様に提供していることが確認できましたが、それが社内に良い「結果」「業績」を生み出しているのかを見ていきたいと思います。
まず、新卒採用について見てみたいと思いますが、先にも見たように大変多くの時間をかけお互いを見極める選考のおかげで、内定を出した内定者の辞退率はほぼゼロです。
最近の学生は自分が希望する企業数社から内定が出るケースが多いので、内定辞退率がほぼゼロというのはある意味驚異的です。
そして、新卒で入社した社員の3年以内の離職率もかつて50%だったのが、現在ではほぼゼロだそうです。
その結果として、社員数は2017年から2024年にかけてほぼ2倍になっています。
また、社員の86%が「自分たちが会社でなし遂げている仕事を誇りに思う」、84%が「働きがいのある会社だ」と回答していて、大半の社員が仕事にやりがいや誇りを感じていることになります。
ギャラップ社の「エンゲージメント調査」(2023年)によると、日本人の「熱意あふれる社員」の割合が約6%(世界最低レベル)で、アメリカは約30〜35%、「やる気のない社員」の割合は日本で7割以上となっていることからくらべると、三和建設の8割以上の社員が仕事にやりがいや誇りを感じているというのは、よい意味で異常と言ってもよいかもしれません。
そして最後に業績の状況ですが、これは具体的には公表されていませんが、森本社長の言葉によると、過去5年間で利益は安定して推移し、経営基盤は強化されているとのことです。
これらの状況から見ると、三和建設は、経営理念に基づいて社員を大切にする → 社員の主体性や自律性が高まる → 組織全体の創造性や生産性が高まる → お客様に独自で質の高い価値を提供できる → 優れた業績(売上や利益)が実現する → 社員のやりがいや誇りが高まる → 社員の定着率が高まる → 新しい人材が入社し辞めない → 幸せな社員が増える という好循環が生まれている絵にかいたような典型的な会社と言ってよいのではないかと思います。
まとめ ― 「ホンモノの理念経営」とは何か
三和建設の事例は、「社員の幸福を経営の中心に置く」ことが単なる理想ではなく、持続的成長の戦略であることを証明しています。
理念に基づき、一貫性をもって人を育て、信頼で組織を動かし、誠実に価値を提供する。
これこそが、私たちがいう「ホンモノの理念経営」です。
人を中心におき大切にすることは、最も確実な経営戦略だと断言できます。
社員も、お客様も、取引先も、関わるすべての人を幸せにしたいと願う経営者の皆さん——
一緒に「ホンモノの理念経営」を実現していきましょう。
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